第322話 分裂

***


「全員、無事か――!?」


 視界が闇に染まり、また消え。そこが建物だと理解したと同時に光本はクラスメイトの心配をした。

 しかし、そこに居たのは藤原、両木、飛野。光本を加えてたったの4人。

 全員ではなかった。


「全員無事ですとも!

 私の魔法に狂いなし!」


 高らかに声を上げたのはアンセロだった。

 他に魔族はいない。


「分裂、させられたのか……」

「オールゼロ様が言ったでしょう?」


 甘えたこと……。

 オールゼロの言葉を思い返して、光本は唇を噛む。


「僕たちだって遊びでこんなことしているわけじゃない」


 光本が手の平に火魔法を発動させる。


 状況は芳しくない。

 自身や藤原、飛野がいわゆるリーダー格であることを光本は自覚している。

 同時にその三人が一箇所に集まっているということは、他の分裂したクラスメイトには指示を出せる人がいない。


 全員でレベルを上げて戦えばいいと考えていた。

 甘かった。

 戦闘は集団戦だということだけを想定していた。

 離れて戦うことなど微塵も考えていなかった。


 ――紡車くんなら、あるいは。


 今はそんなことを考えている場合出ないと、光本は目の前の敵に集中する。


 アンセロ。

 光本がツムギから聞いて把握しているのは、精神魔法を使うこと。

 人を操り、魔物を操る魔法を持っている。

 いつの間にか騙されている可能性がある。


 ――クラスメイトだって、視覚に入らないだけで近くにいるかもしれない。


 それは淡い期待か。


 アンセロに対し、光本たちはその全てを疑わなければならない。

 ツムギが以前戦った時の話を、光本は頭の中で思い出す。

 出会った時にはすでに罠の中であった。

 モンスターがアビリティによって操られていた。

 そんなモンスターは倒すしかない。


 仲間の場合は――


 ――紡車くんの言葉は……。


『突然の裏切りには注意しろ。

 

「コウキ!」


 意識の海に深く潜っていたせいか、突然肩を強く叩かれた光本は身体を大きく跳ねらせた。


「……」

「ど、どうした?

 それよりも、あいつ、紡車が言ってた精神を操るとかいうのだろ?

 はやく倒さないと俺たちにも危ないんじゃないか?」


 先ほどオールゼロを目の前にして逃げ腰だったのは何処へ行ったのか。

 未知の相手であっても、倒せると思ったのか藤原はやけにやる気だった。

 彼に勇気を与えているのは、この場にいるメンバーが主力組だからというのもあるだろう。

 早く目の前の魔族を倒して他のクラスメイトと合流したいという思いは、光本と同じだった。


「……そうだね。

 みんな、わかってると思うけど」


 光本を見つめていた全員が頷く。


 突然の裏切りには気をつけろ。


 なら――と、光本の魔法が藤原達に向けられた。


「全員、僕の敵だ」


 奥にいたアンセロが、それを見て嗤った。




『突然の裏切りには注意しろ。

 相手が動いていないとき、それは自身が幻覚を見せられている可能性が高い。

 

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