第401話 流星祭
***
「ぷくぅ」
リスがいる。頬を大きく膨らませて、怒っていますと言わんばかりの表情だ。
大きな三角の耳にふさふさの尾っぽ。これリスじゃなくて狐だ。オウカだ。これいつ以来だろう。
クィのお姫様ごっこが終わった晩、オウカは俺の部屋に来るなりベッドの上でご立腹な様子だった。
「どうしたんだ、そんなぷりぷりしちゃって」
「だって……」
つんつんと頬をつつく。嬉しそうに口元が少し緩んだのが可愛い。構ってちゃんモードということだろう。
別にオウカを蔑ろにしたわけではない。先にクィと魔王の件を済ませておきたかったのだ。
「昨日はあんなこと言ってたのに、今日はず――っと放って置かれて。
ツムギ様はいつもそんな感じです」
「ああ、いつも何も言わず待っていてくれてありがとうな」
ぷいっと逸らされた頭の耳をもふもふ撫でる。
撫でて撫でて撫で回して尾っぽへと手を忍ばせる。
「ひゃわッ!?」
びくりとオウカの身体が動いたのを合図に一気に尾っぽを責めて立てた。
「あん、ひゃひゃ、やめて、そこはくすぐちゃいですから!」
「おうここか? ここが弱いのか?」
「ぴゃー!」
擽るように尾っぽを撫でる度、オウカの身体が捩れる。
「はひっ、ひっ、ぃ」
「ぜぇ、ぜぇ」
勢いにのり、もとい調子に乗りすぎて、二人でバテた。
一緒にベッドの上で転がる。
「……」
「……」
横になったまま、しばらく二人で見つめ合い。
「……ふふ」
「はは」
オウカから漏れた笑い声につられる。
二人でクスクスと、控えめに笑いながら。
「なんだか、懐かしいですね」
「そうだな」
まだ俺達が出会ったばかりの頃。
俺がオウカをくすぐって緊張をほぐしたり、
「青色だと思っていた目が金色だったり」
「そうだなあ」
色々とあった。
たった一年とも言える。
でも俺にとっては一生とも言える時間だったかもしれない。
それだけ、オウカが隣にいてくれることに救われていた。
「オウカ」
俺は起き上がってベッドから降りると、寝転がっているオウカへと手を伸ばした。
「星を見に行こう」
***
二人で魔王城の屋根から星を眺める。
「やはり木が多いですね」
「それなあ」
魔王城は森に隠されるように立てられているので、見上げても紅葉によって煌めきが薄れているのだ。これはこれでありかもしれないが。
「いや、これで――極魔法」
俺は思いついたことを反射的に実行する。
木の幹、枝に魔力を流し込み、無理やり別方向へ逸らした。
藍色のキャンバスが視界を埋め尽くす。
「わぁ、すごいですツムギ様」
星々の輝きが増したかのように、夜空一面が輝きを放つ。
オウカは嬉しそうに星と星を指でなぞって繋いでみたりしていた。
「あ、流れ星です」
しばらく眺めていると星がひとつ流れていく。
さらにひとつ、ひとつ。
「おお、流星群か?」
途端にたくさんの星が軌跡を作りながら流れ落ちていく。
ただそれは普通の流星らしくなく、明らかに地上へと落ちていくような――って、
「こっちにひとつきてるじゃねえか!」
俺は立ち上がり、猛スピードで飛んできた星を掴んだ。
手の中に残る暑い感触。開くと、白い石――飛翔石があった。
「なるほど、あれが例の流星祭か」
「以前、ソ・リーで飛ばしたあれですか?」
「そうそう」
ソ・リーで双子の魔族と戦った後、弔いの意も込めて行われた投星祭。
俺たちはそれぞれの想いを込めて石を夜空へと投げた。
「つまり、これも誰かの願いが込められた石なのか……」
そうやって石を見つめていると、突如青色に輝きだし、パンッと小さく破裂して粉々になった。
「バ、ルス……?」
「なんで弾けたのでしょう?」
「さあ……。
誰かの込められた願いが叶ったのかもしれないし、何の願いも入ってなくて、ただ力尽きただけなのかもな」
「そう、ですか」
しばらく流れる沈黙。
二人とも、あえて口に出さないあの頃の話。
それを話し出してしまえば、シオンやソリーのことを思い出してしまうから。
「結局、俺の願いは叶わなかったな」
オウカにも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
何もなくなった手を見つめて。
ひたすら輝く空を見上げて。
さて。
勇者が来る前に。
最後に一つだけやらないといけないことがある。
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