第402話 幽閉番人
***
光明石は保持した魔力を消費しきるか、石の寿命が尽きない限り明かりをともし続ける。
そのため、一般的には細かく砕いたものをカンテラに入れて短時間的に使うか、蓋のついた専用の火立てを用いる。
本来であれば魔王城に壁にも光明石が取り付けられ明かりを灯しているはずなのだが、あいにくツムギの手持ちが少なかったため、夜は月明かりだけが王城を照らしている。
しかしその明かりすらも一部の部屋にだけで、最初に入ってきた中央の広間や階段などは夜の闇に満たされていや。
その階段を――小さな足音が下っていく。
裸足なのか、音は小さく、石造りの階段と僅かに擦れあう音だけだ。
部屋で寝ていればその音は聞こえない。
足音は暗闇の中で迷いのないテンポで進んでいく。それはまるで道が見えているかのように。
足音が止まり、続いて
広間の奥の教会にいた場所への扉が開かれた。
ステンドグラスから光は入り込んでいない。黒と藍色が混ざる場所を足音が進む。
本来ならそこにはオールゼロの遺体があったのだが、ツムギが全人類に向けて自身の姿を見せる際に処分している。
だから足音がこの場所で響くとすれば、目的は一つだけ。
教壇が床と擦れて音を立てる。そこそこ大きな音だが、室内であることや階が違うこともあり寝ている者たちには聞こえないだろう。
地下への階段を、足音が進む。
そして、一番下まで降りた瞬間。
明かりがともされた。
それは光明石ではなく、高価な蝋燭の方であった。
「知らなかったか?」
突然、奥から声がした。
「ここの灯りは人に反応して勝手に点くんだよ。
でも空気中の魔力の流れに反応しているせいか、動かないでいると、また消えるんだ」
声の主と目が合う。
「元の世界には人感センサで自動点滅する照明器があってな。でもトイレの便座に座り続けてると勝手に消えたりするんだぜ。まだ居ることに気づきませんでしたってな。お前も気づかなかっただろ?
――
「……よく、お分かりになりましたね」
***
俺は笑みを浮かべてみるが、理が訝しげな表情を崩すことはなかった。
地下に訪れてきたのはやはり理だった。
目の前の彼女がオウカのふりでもしてきたらどうしようかと思ったが、そんな小細工までしてこなくて安心した。
もしくは、俺がここで待ち伏せていたことが想定外だったのか。
それはそうだろう。
「……部屋から出てくるとき、あなた様はベッドの上にいたと思いましたが」
「魔王の極魔法については知らないか?
このアビリティ、天級魔法レベルまでなら余裕で使える万能魔法なんだぜ?」
極魔法は万能型の汎用魔法だ。どの属性のどのレベルの魔法も使える。
しかし特化型のアビリティには負ける可能性も否めない。そこは使う人間の問題だろう。魔王の問題か。
「お前が出て行ってからここに瞬間移動するくらい雑作もないさ」
「そうですか……」
理は適当な相づちを打つだけで、警戒を全く怠っていないことはすぐにわかった。
「……本題に入ろうか。
どうしてここに来た? 一応入るなと伝えていたはずだが。
オウカが表に出ていた時だから知らなかったとは言うなよ?」
「他の二人は入っているのに、私だけいれてくれないのは不公平ではありませんか?」
「あの二人は必要だから来てもらっただけだし、地下のことは知らない。なのにお前は知っていた。
理……お前の目的は、そこの魔道具だろ?」
俺が視線をやったのは後方で浮いている立方体の物体。
元の世界へ戻るための魔道具だ。
「……その魔道具、名を
それはただ勇者と魔王が争い勝敗を決めれば使えるというものではありません。
――最低でも、どちらかの命が必要なのです」
「……そうか。まあ、そこの文字は読めたし、明確に書かれていなくても予想はついてたがな」
「だから……」
「だから壊すと? 俺が負けて、鍵になってしまうと思ったのか?」
「……いいえ、あなた様が負けることはない。
神に至る力を持つあなた様であれば、勇者程度の俗物、すぐに葬るでしょう」
「ならば、どうしてだ」
彼女は大きく深呼吸をし、そして決意した目を向けてきた。
「あなた様を、この世界に。
いいえ、次なる世界に招くために。
帰すわけには、いかないのです」
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