第403話 2680

「……次なる世界、ねえ」


 俺は大きく息を吐く。


「それは、こことは違う世界か?」

「いまとは違う世界と言うべきでしょう。

 この世界を、再構築するのです」


 俺は無言で続きを促した。


「この世界は魔王が支配し、勇者がそれを駆逐する。ただその目的だけで生まれました。

 しかしそれが達せられ、勇者であり管理者である神の手が離れたことで、世界が歪み、新たな要素を書き加えて調整されました。

 ここまでは、以前お話した通りです。

 しかし世界が歪んでいることは何一つ変わらない。

 私はこの歪みを無くすために生まれたのです。

 だから世界を新たに作り上げなければならない」

「つまり……お前が新たな世界を作り、そこの神にでもなるのか?」

「いいえ、神になるのは――あなた様です」


 俺が、か。


「ツムギ様。私と一緒に新しい世界を作りませんか。 

 あなたにとっても、私にとっても異世界となる、ここではない――」

「そこには」


 俺は彼女の言葉を遮って、問いを投げかけた。


「そこには……オウカはいるのか?」


 彼女はすっと目を細め。一度俯いて小さく息を吐いてから再びこちらを見た。


「……彼女はこの世界の調整のために生まれた存在。

 次の世界に妖狐族を作り上げるとしても、まずそれは私です。

 彼女の人格はこの世界ごと、消えてもらいます」

「そうか。ならこの話はお終いだ」


 俺はアイテムボックスから虧喰らいを取り出した。


「あなた様は、新世界よりも彼女を取ると?

 邪視は選ばれた者だけが手にできる力。

 あなた様はそれを持っている。

 次の世界の一人目になれるのですよ?」

「アダムとエバに興味はないんでね。

 それにオウカが笑えない世界じゃ意味がないんだ。

 なるほど、良い邪視と悪い邪視ってのはこういうことか。

 今を維持するために新たなる悪として存在する邪視と、新たな世界を作るために存在する邪視。オールゼロは前者を望んだが、お前は後者で、それが途中でわかって相いれなくなったわけだ。

 人間と同じだな。互いの正義をぶつけ合っただけか」

「あなた様は、前者ですか。

 彼女のいられない次の世界ではダメで、この世界をとるのですか……。


 ………………。


 ………………わかりました」




 俺が何かを答える前に。

 彼女は小さく頷くと――青い魔力を纏いだした。


 その顔には模様が浮かび上がり、白い尾が九つになる。


「邪視を持つ妖狐族が九尾になったとき、この世界を滅ぼし新たなる世界を作る力を手にできます。

 しかしそれには同等の邪視を持った存在が必要。

 だからあなた様には魔王になってもらいたかった。

 それまでは大きく邪視を使ってほしくなかった。

 ここまではよかったのです。

 問題なくここまできたのです。

 しかしそのお気持ちまではどうすることもできなかった。

 私の力不足です。

 だから、最後の手段を取ります」

「無理にでもこの世界を壊すか?」

「いいえ、この世界はいつでも壊せますし、いつか壊れます。

 いま、必要ないのは――オウカです」


 彼女の瞳から光が消える。

 同時に俺は魔法を発動させた。

 レイミア、借りるぞ。


「極魔法――2680ヒドラエッ!!!」


 意識が、深く白い海へと飛び込んだ。

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