第393話 絶望と裏切り
***
「ツムギ様、ご無事でしたか」
上に戻り中央の広間へ戻ると、ずっと待っていてくれたのか三人ともそこに居た。
オウカがいの一番に駆け寄ってきて心配そうな声を上げる。
「ああ、大丈夫だ」
俺は何事も無かったように、オウカの頭を撫でる。
しかし彼女から憂いの表情は消えない。
俺が嘘をついてるとか、隠しているとかそういうのはもう見抜いているのかもしれない。
嬉しいと思うべき、なんだろうな。
「ツムギ様、オールゼロは……?」
エルもおどおどとした様子で尋ねてきた。
「死んだよ。
あれだけの傷を負っていて、数日も生きていたのが奇跡なくらいだ」
「では、やはりあの傷はツムギ様が」
「見たのか」
「はい……私も最初は鳥籠のような牢屋に閉じ込められていました。
しかし数日前、彼は身体に傷を負ったまま牢屋の鍵を開けて、それから一人であのベッドへ戻ったのです」
ということは、オールゼロも死期を悟っていたのだろう。だからこそあそこまで饒舌だったのかもしれない。
人質のエルを自由にしたのは、この魔王城に他に誰もいないからだろうか。
勇者だってそんな数日でこれるとは思えない。早くても数ヶ月。長ければ、何年か掛かるか。
「最初は看病しようと思ったのですが、止められてしまい……ですがこのお城から抜け出すことも出来ずなにか方法はないかと探し回っていた時に、ツムギ様が来てくださいました」
エルは再び俺の手を握り、「本当にありがとうございます」と笑った。
だが、そんな温かな空気は、唐突に終わりを告げる。
「王様」
少し離れた場所で、クィが膝をついて頭を垂れていた。
ここにきてようやく、俺はクィの言葉の意味を理解した。
俺はエルの手を優しく離し、クィの方へ向き直る。
「俺がこうなることを知っていたのか?」
「ずっと匂いがしてたのですよー」
変わらない口調。しかし頭は垂れた故に違和感のある光景だ。
「どういうことですか?」
「ツムギ様……」
首を傾げるエルと、何かを感じ取って顔を強張らせるオウカ。
そんなふたりを余所にクィが告げた。
「我が主、我が魔王。
大精霊はあなたに付き従い。この命を捧げます」
真面目腐った言葉に、俺は特別表情を変えることはなかった。
代わりということではないが、小さな悲鳴を上げたのはエルだった。
「なにを、そこの少女は何をおっしゃっているのですか!?
ツムギ様が魔王? そんなわけないでしょう!
ツムギ様は勇者候補として召喚された御方。そんな人が魔王だなんて、だいたい魔王は魔族が――」
想像以上に驚いた様子で声を荒げたエル、そしてその隣のオウカに、俺は無言でステータスを開き覗かせた。
「……そんな気はしていました」
オウカが息を呑むように告げる。
しかし俺を見つめる瞳は覚悟を決め、そして受け入れるという意思を示してくれていた。
「私はツムギ様が何者であろうと、ツムギ様の奴隷です。
ずっと貴方の隣に居ます」
「ありがとう」
しかし、
「認めません!」
エルを目を見開いて、こちらを睨んでいた。
その瞳は恐怖よりも、絶望と裏切りを受けたような色をしていた。
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