第337話 補給
「なんかあっちはすごいことになってるな」
校庭では大型魔物が闘い合ってるかのような凄まじい光景が生まれていた。
それを俺とリーは別の校舎から遠目で眺めつつ、廊下を駆けている。
「化け物に化け物をぶつける。非常に合理的です」
「俺たちもこれから化け物にぶつかりにいくんだがな」
正直、召喚した中で一番の化け物は精霊であるリーだと思うんだが。
口にしたら
「リー、オウカの居場所が分かったりしないか?」
「残念ですが。吾が契約している街の中であるならともかく、ここでは全力を出すのもままならない可能性があります」
「やはり精霊に関しては契約の制約が面倒だな……。
以前遭遇したクィみたいに世界丸ごと契約してれば話は別なんだろうが」
「原初の大精霊は別物です。前にも言ったと思いますが、あれが神にも等しき存在。
そう易々真似できたら、神々で戦争なんてことになりかねませんよ?」
まあ、人の身体を一瞬で草にしてしまうような相手だ。正直俺も二度と関わりたくない。
「ただ、あいつがダンジョンを生み出していたから、魔族となんかしら関わりがあると思うんだよな」
「原初の大精霊との遭遇率は非常に低いと思いますが、まあお願いすればダンジョンぐらい作ってくれるんじゃないですか。存在が異常なだけで、物好きな精霊に変わりはありません」
ということは、精霊の特性や、クィの存在を知ったうえで魔族が利用した。そう考えるのが自然か。
オールゼロたちにこの世界の知識量で敵うわけもないからな。それは仕方ない。
「ともかく、吾に全力を出せと言うなら、それなりの準備が必要です」
「準備?」
リーが急に足を止めた。
「聞こえませんか? いまこの区域に流れている音」
「音……? いや、何も聞こえない」
「そうですか、そこはさすがツムギと言っておきましょうか」
「何の話だ?」
「……クィとは別にもう一人だけ、神に近い精霊がいました。
それは月の名を司る私とは別に、太陽の名を司る精霊です.
彼女が操るのは音。それは生き物や草木の心を操る力です。
たぶん、ここにいる人類がおかしくなっているのは、いま流れている音のせいです」
「まて、それならオウカやレイミアにだって何かしらあったはずだ。
しかしレイミアは魔族と戦ったようにしか思えない。普通の生徒ではレイミアを殺すなんて到底無理だ」
「それはツムギが聞こえていないことと関わりがあるのだと思います。
ツムギの存在は特別なものです。ツムギの近くにいた、あるいはツムギを強く想っている人類には影響がないかもしれません」
「そんな……」
思わず拳を握り締める。
それは逆に言えば、俺と関わらなければ魔族と対立することもなかったんじゃないのか。
「悔やまないでください。
どんな状況であれ、彼女たちが選び、考え、行動した結果です。
それを悔やんでいいのは選択した本人だけです」
俺の表情から考えていることを察したのか、リーはいつもより強い口調で言った。
「いまツムギにできることは復讐なんかではなく、彼女の意志を継ぐことですよ」
「レイミアの……」
光本から聞いた話では、オウカを逃がしてくれたのはレイミアだ。
彼女がしてくれたのは、仲間を守ること。
「……わかった」
「では少しそこに膝をついてください」
リーからの意味不明な指示に俺は首を傾げる。
「どういうことだ?」
「言ったでしょう、準備が必要だと。さあ」
促されて、俺はその場に膝をつく。
すると、リーが寄ってきて――俺のおでこにキスをした。
「は?」
「はい」
そのまま、頭を抱きしめられる。
「ふざけているのか?」
「いいえ、本気です。
ツムギを補給して、これで心置きなく全力で戦えます」
数秒で解放されたが、眉を顰めてリーを見ると、彼女は小さく微笑んだ。
「さあ、行きましょう」
その時だった。
「――――!!」
廊下に、一つの悲鳴が響いた。
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