反撃(王都学院)
第336話 どでか祭り
「結局あなたとはやり合わないといけないのですね」
王女の声。
しかしその中身が紛い物であることは、その場にいる全員が理解していた。
校庭中央に移動させられたのは、数名の勇者候補とクラビーである。
最初に勇者候補がエルに成りすました魔族へ攻撃を仕掛けたが、あっけなく返り討ちに合い、いま前に出てきているのはクラビーだけであった。
「これも何かの因縁ですよ、クラヴィアカツェン!
さあ、ツムギさんが目覚めて登校する前に終わらせちゃいましょう」
かかってこいよと、クラビーは指をクイクイと動かして煽る。
「たかが一冒険者、しかもポンコツだったあなたに何が出来るのですか?」
「ていうか、いい加減王女の真似とか止めません? 全然似てないし。
あ、もしかしてお姫様を夢見てるとか? ぷーくすくす!」
「……いわせておけば」
エルの――クラヴィアカツェンの表情が険しいものになる。
「はーあ、もうこの姿も飽きたしいいや」
「そうそう、本来の姿をさらけ出し……て……ぇッ!?」
クラヴィアカツェンの姿が肥大化する。
その大きさは学院の建物相当。
『そんなに見たければ見せてあげますよ――恐怖を!』
クラビーの見上げた先にあるのは――腕。
大地から生えたかのようにそびえ立つ人肌の腕だった。
しかし、その姿が異様に見えるのは、斑点のようにいくつも飛び出た――口だった。
「うっわ気持ちわるうううううううう!?」
『潰れろ!』
むき出しにした蓮の実のような光景。
盲目のクラビーには実際見えていないのだが、ツムギからもらった魔法の恩恵でその姿かたちを認識することはできた。
そんな腕が頭上から降ってくるのだから、逃げるのが当然だった。
「あ、間に合わない」
潰されると悟ったクラビー。
最終手段を出すか、と決意を改めた時だった。
『荵ウ鬥悶′縺?▲縺ア縺?>縺?>??シ』
耳を劈くような、悲鳴にも近い音と共に、空を覆い隠す腕が揺れる。
斑点が揺れる光景に気持ち悪さを覚えながらも、クラビーはその原因となったものの輪郭を感知した。
「なななんですか!? モンスター!?」
黄土色の生物。
ツムギが召喚した、ルース・グランディディエ・ドラゴンである。
『KRRRRRRRRRRRRRRRRR!!』
『ぬおおぉおおおああああ!?』
さらに上空からダアトが飛んできてクラヴィアカツェンに体当たりを喰らわせる。
呻く腕はそのまま横に倒れていき、建物を一つ壊した。
「あ、なんかわからないですけど、すっごーい!」
ハイテンションになるクラビー。
周りにいる勇者候補たちは、なにがなんだかわからず、口を開けたまま唖然と立ち尽くしている。
「うん? 魔族と一緒にいらないのまで見つけました」
「はえ?」
そんな彼女らの隣に現れたのは、一人の少女だった。
硝子のような透き通った青の髪に、瞳。
しかし瞳孔は獣のように縦長で、灰色の外套から蜥蜴の様な尻尾が飛びだしている。
亜人――ではあるのだろうが、その輪郭は見たことがないというのが、クラビーの感想。
「あれが魔族でいい?」
「え? あ、はい」
突然問いかけられて、クラビーは呆然とした様子で答える。
「そうですか。では、パパの命に従って殺します」
「え、え――どぅぇぇえええええぇぇ!?」
少女の外套が破け、裸になったと思ったのも束の間。
小さな身体が形を変え肥大化していく。
『この姿の方が楽でいい』
青肌の竜がそこにいた。
「な、なんですか、このどでか祭りは……」
巨大な生物の入り混じる様を脳内で整理するクラビーさえも、口が塞がらなくなった。
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