第12話 瞳の色

 ふっさふっさと揺れています。尾っぽが尾っぽが揺れています。


「あの……ご主人さひゃあ!?」


 おもむろに尾っぽを掴んだ。がっしりと掴んだ。すごく太いです。


「お嬢さん、奴隷はご主人様の言うことを聞かないといけないんだよね……?」

「ひゃ、ひゃい。で、でも契約外のことは拒否権ひゃあ!」


 掴んだ尾っぽを先端まで撫でる。毛並みが見た目以上に艶やかで素晴らしい。

 

「……耳は反応なかったのに、尾っぽは過剰なまでの反応だな」

「し、尻尾は、妖狐の尻尾は敏感なんですぅ……」


 少女の身体がぶるぶると震える。

 さらに一度、撫でる。


「ひっ、ひひ」


 少女から小さく声が漏れた。

 さらに撫でる。「ひひ」

 撫でる。「やっ、ひっ」

 撫でて、撫でる。


「ダメです限界ですご主人様ダメです――!」


 少女の口が大きく開いた。


「あはっ! くすぐったい! くすぐったいです! あははは!」

「なるほどね」


 ひと撫でするたび、少女は体をくねらせる。

 あれだ、妖狐のくすぐったい部分なのだろう。人間でいう脇とか足の裏とか、そんな場所だ。


「はひっ、ひひひっ、ご主人様ぁ」

「おっとやりすぎた」


 尾っぽから手を離すと同時に、少女がベッドに転がる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 少女は大きな呼吸を繰り返す。


「うんうん、健全健全」

「なにがですか!」


 俺の言葉に少女が起き上がる。


「大事な尻尾を!あんなに弄んで!」

「でも、体の震えは止まっただろ?」

「体の震えって……あっ」


 少女が己の手を見つめる。

 俺が話してるとき、見つめてるとき、耳を触ったとき。彼女は小さく震えていた。


「相手がご主人様だって植え付けられても、結局は初対面の相手だ。怖いのが当然なんだよ」


 怖くて、逃げて、そうして一人でいたのが俺だもの。よく知ってる。


「お前が思ったこと、感じたこと、話したいこと、何でも言ってくれ。ご主人様と奴隷なんて形式的なモノだ。俺は――仲間が欲しかったんだよ」


 少女の前で膝を折り、小さな手を握り締める。


「さて、名前を決めようか」


 口にすると同時に――少女の顔から包帯が落ちた。


 金色の瞳と目が合った。


「み、みちゃ!」


 少女が両手で顔を隠す。

 俺はその手を掴んで、そっと降ろさせた。


「綺麗な金色の瞳だよ」

「……えっ」


 少女の視線が改めてこちらに向けられる。

 金色の瞳に桃色の髪。


「――オウカ。お前の名前は、オウカだ」

「オウカ……はい、ありがとうございますご主人様」


 少女の笑顔は桜のようだった。


「「で、金色の瞳?」」

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