第87話 異言語力

 石壁に囲まれた空間。

 明らかに人工的な感じがするが……ここが祠のある場所だろうか。


「あ、ツムギさん~」


 そこにクラビーがへたりと座っていた。


「お前……生きてたのか」

「ひどいっ!」


 涙を浮かべるクラビー。

 オウカのキズナリストで生きていることは分かっていたが、実際問題どうして無事でいられたのか不思議だ。

 ダンジョンから相当深い位置に落ちたはず。俺の様にステータスが高いなら大丈夫かもしれないが、クラビーは冒険者としてはまだまだのステータスだ。普通に落下して無事でいられるわけがない。


「クラビー、あそこから落ちてきて」


 指差されたのは上空。俺とオウカが落ちてきた場所と同じように、遠くに小さな穴がある。

 なるほど、俺たちとは違う穴から落ちたのか。だから近くにいなかったんだな。


「それで、ここにぶつかったんです」


 指先が地面へと落ちる。

 そこにはバラバラになった木片が散らばっていた。


「たぶん、これがクッション代わりになったんだと思うんです」

「なるほどな……木片?」


 どうしてここに木片があるのだろうか。

 と、疑問にしてみたものの、すぐに回答へとつながる。

 同時に、顔から血の気が引いた。隣のオウカも顔が青くなっている。


「それってまさか……」

「ほこら……」

「ふぇ?」


 クラビーのとぼけた声に、


「「ポンコツううううううううう!!」」


 俺とオウカの声が重なった。


***


「ええ~!? それがツムギさんたちの目的のものだったんですか~!?」


 クラビーを壁へと投げ飛ばして、俺とオウカはすぐに木片の調査を始めた。


「やはり木片の量と形からして、小さな祠って感じだよなあ」

「そうですね……これを保護しないといけなかったのに」


 オウカと二人でクラビーを睨む。


「ひぃ~、ご、ごめんなさい~!

 お願いですからここから抜いてください」


 壁に半分埋もれたままの猫耳少女が嘆く。壁にぶつかる時に土魔法を加えてやった。

 それを無視して作業を続ける。


「中には何もなかったのか? 精霊が封印されてるとか、なんか特別な宝玉とか入ってるのがお約束だろ」

「お約束、なんですか? 特になにもなさそうですが、下に埋もれちゃってるかもしれませんね」


 洞窟の中は暗いままなので、さらに数個火球を発生させる。


「ツムギ様、木表に何かあります」


 オウカが手にした木片に火を近づけると、確かに文字らしきものが刻まれている。


「読めないな……古代文字か?」

「かもしれません」


 俺はアビリティの異言語力があるおかげで、この世界の文字を読み書きすることができる。

 そのアビリティですら認識できず、オウカも分からないということは、もう使われていない文字の可能性が高い。

 つまり、だいぶ昔のもの。


「やはり祠で間違いないか」

「そうですね」


 オウカと二人でクラビーを睨む。


「ひぃ~、ご、ごめんなさ……い」


 嘆いていたクラビーのトーンが低くなる。


「お願いですからここから抜いてください」

「反省したらな」

「します! 反省しま……って落ちたのはクラビーのせいじゃないです!

 いや、もうなんでもいいですから!

 後ろ! 後ろ!」


 と、慌てた様子で大声を上げるので、自ずと睨んでいた首を元の方向へ戻す。


 ――木片の上に、黒い鎧の騎士が立っていた。

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