第191話 クロノス・ネメア

「またも一瞬だあああ!」


 実況の叫びに会場が湧き上がる。

 人は既に百人近くいるだろうか。


 この試験は勝ち抜き戦で、進めば相手のクラスは上がっていく。

 たぶん、最終的にBクラスとCクラスの決戦を行いやすくするためだろう。

 もしそうならないとしても、勝ち上がってきた者なら観客も湧く。それが今の状況だ。


「Gクラス代表ツムギ選手! 見事Dクラス代表もひと捻りで圧勝!

 ついに念願のCクラスまで来ました!」


 念願した記憶はない。

 だが、最終的にはCクラス以上が理想なので問題はない。審査員の評価次第の部分もあるが……。


「この勢いは止まらないのか!?

 参りましょう!  Cクラス代表、クロノス・ネメア選手!」


 扉が開き、現れたのは金髪ウェイだ。


「まさか、貴様が黒ローブだったとは……」


 そういえばこいつは黒ローブを仲間に取り入れようとしていたんだっけか。


 と、突然会場が騒めく。

 魔族が来たのか――と思ったが、会場に現れたのはエルだった。


「おっと! ここでエル王女がお越しになられた!?

 スタッフー! 席をご用意してー!」


 しかし、エルはそれを断り一般生徒が集まる場所へと向かう。


「ご一緒してもよろしいかしら?」

「え、あ、はい」


 そこはオウカとシオンが座っている場所だ。

 オウカが驚いた様子で頷く。


「私もツムギ様の活躍を是非拝見したいと思いまして」


 その言葉に会場の生徒はざわつく。


「むむ!? つまり、Gクラス代表のツムギ選手は例の黒ローブで間違いないということでしょうか?」

「……世の中分からないものですね」

「さて、王女様もご覧になられるということで、クロノス選手にはより一層頑張っていただきたいですね!」


 チッ、と舌打ちが響いた。


「僕が……頑張る、だと?」


 クロノスの瞳には明らかな敵意。

 そして闘志が宿っていた。


「確かに僕は一度負けた。しかしそれも偶然の結果だ。

 貴様はGクラスで僕はCクラス。その差は歴然。

 ここまでは運よく雑魚ばかりだったかもしれないが、ここからはそうはいかない。

 驕るなよ、のけものくん。

 貴様が喝采を浴びるのもここまでだ。

 僕の全力を持って踏み潰してやる」


 俺は一言も発していないのだが。

 吠え散らかしたクロノスはポケットから木の杖を取り出す。そういえばカイロスも持っていたが、お家柄というものだろうか。


「本物の魔法、空間の魔法師ネメア家の力、とくとご覧に入れよう!」

「それでは、試合開始いいいいい!」


 法螺の音ともにクロノスが杖を頭上へ掲げる。


「空間魔法――2383デネボラ


 杖の先が光る。しかし何も起こら――


「!?」


 波。

 空間が波打つように揺れた。

 何かが動いた。そう感じた時には、背後に衝撃が走っていた。


 ローブから火が出て全身に燃え移ろうとする。

 あの波か。しかし火魔法の動作はなかった。


 空間魔法。場所を越えて攻撃できるのか。


「予測不可能の攻撃。

 味わうがいい、ネメア家が生み出した、上級のさらに上をいく

――天級魔法を!」

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