赤竜と黒狐(王都学院闘技場)
第190話 準備運動
「さてさて、ついに始まりました。学院恒例選抜昇格試験。
実況は放送部のアイドル猫ちゃん、アマタンと!」
「アイドル……? あ、放送部のレヴィアです。犬人族です」
「ところでレヴィ先輩、入学早々放送部に入って実況するのはいいんだけど、これなんの試験?」
「知らずにに実況する気だったんですか?
こほん。選抜昇格試験とは、入学から1ヶ月後、つまり本日ですが。
各クラスで優秀な生徒同士が模擬戦を行い、審査員から高評価を得たものがクラスを昇格できる試験です」
「な、なるほど? なんで全員じゃないの?
本来の昇格試験は1年ごとらしいじゃん」
「入学試験の評価が不当だと言う生徒のための試験ですね。本当に実力があるものなら、1ヶ月でも結果を出せるだろうという考えです」
「なるほど! ん〜なかなかハイな判断ですね〜!
それでは早速行ってみましょうか!
まずはGクラスとFクラスです!」
「Gクラスからなんて珍しいですね」
「そうなんです?」
「はい。Gクラスは所謂不適格者のクラスです。1ヶ月で学院を去るものも多くいると聞きますが、昇格したいだなんて人は今までいませんでした」
「なるほど、では登場していただきましょう!
Gクラス代表! ツムギ選手!」
扉が開き、観戦に来た生徒が集まる闘技場へと入る。
人は3,40人といったところだろうか。
生徒会長が言っていたが、上位のクラス同士が闘う時間帯になれば人も集まるらしい。
まあ、ライムサイザーが来るまでの準備運動だ。
「おっと!? あの黒ローブ姿は!」
「顔を隠すように深く被ったその姿。
エル王女についていた方と瓜二つですね」
「ということは~? エル王女の付き人がGクラスに!?」
「いえ、ただの真似でしょう」
冒険者スタイルなのだが、まあGクラスってことじゃ当然の反応か。
これで偽物扱いされ続けたら、冒険者に戻っても王都じゃ面倒なことになりそう。
「えーこちらの情報によりますと、なんと希望はCクラス!
愛しの恋人の隣にいたいがために昇格試験にでるとかでないとか!」
会場の席に座っている生徒達からヒューヒューとからかいの声が聞こえてくる。
どうしてそんな適当な情報が出回ったのだろう。
「では続いてFクラス代表! パンコッコ選手!」
向かいから藍色のパーカーを着た巨漢が現れた。俺の三倍はあるか?
「Gクラスのくせによく出てこられたな! おいらが捻り潰してやるぜ!」
「えー、パンコッコ選手はその図体からもお分かりになる通り戦闘向きの生徒ですが、どうやら素行不良の過去が原因でFクラスらしいですね」
「Fクラスには多いと聞きます」
「そんな両者で開幕戦です! それではどうぞ!」
法螺を吹いたような音がどこからともなく響き渡る。
「死ねぇ!」
「パンコッコ選手ー! 殺しはナシですよー!」
俺へと迫りくる巨漢に、実況が軽いノリで注意をする。
「事故ならしかたねえよなあ! 弱すぎるからなあ!」
そう叫んだ男は――
「あ?」
会場の天井は結構な高さだ。何十メートル先へと浮かび上がり。
落ちた。
頭から見事に落下した男は、奇跡的にも生きているようだが身体を痙攣させている。
「……え、あ、き、決まったー!?
なんと、まさかのGクラス代表が勝利だー!?」
自称アイドル猫人族が叫ぶも、観客は驚いた様子で口をぽかんと開けていた。
これでは準備運動にもならない。
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