第108話 泥の巨人

「お話は終わったかしら?」


 その声は、この場にいない者のだった。

 コツコツと足音が穴の奥から響いてくる。


「なんですの? 正攻法でダンジョンを突破しようだなんて、くだらないことでも考えていたんですの?」


 出てきたのは、双子のうちの白い髪――クラヴィアだった。


「なんだ、俺たちにダンジョンを楽しませてくれるんじゃなかったのかよ」

「正しくは、ダンジョンで私たちを弱らせてから殺す算段だったのでは」


 穴の近くにいたお姉さんは咄嗟に離れて、俺ら共々攻撃の体勢に入る。


「馬鹿らしいですわね。ダンジョンが楽しみたいなら既にあるものを使いなさいな。

 ワタクシたちはお人好しでもなければ、我慢強いわけでもないのですわ。

 呑気に待つくらいなら、こちらから出向くに決まってるじゃないですの」


 わずかに笑みを向けてくるクラヴィア。

 その視線は間違いなく俺を捉えていた。


「他は眼中なしってか?」

「ツムギ様には指一本触れさせません!」


 視線を遮るようにおじさんとオウカが俺の前に立つ。


「……なんで一人なんだ?」

「あら?」


 疑問が口に出ていた。

 それを聞いたクラヴィアが目を細める。


「どういうことだ、ぼっち」

「俺たちはあいつらによって分裂させられた。

なら片方を二人で殺しにくるのが普通じゃないか?

にも関わらず、あいつらまで二手に別れる理由――」


 気づいた。

 殺されても生き返る。傷もすぐ治る。

 ここまでお約束のネタをどうして忘れていたのか。


「互いを食べて回復する……そんな能力があるとするなら」

「ご明察ですわ」


 クラヴィアが己の小さな手を口の中に入れていく。

 くちゅりと音を立てて、喉から何かを取り出した。


 ――眼球。赤い眼球が一つ。


「ワタクシたちは、互いが互いを回復させますの。

どちらかが健全であればいいのですわ」

「やられたな……」

「お、おいぼっち、説明しろ!」

「わからないのかよおじさん。

要は、あの双子は同時に殺さなきゃ何度でも生き返るって話だ」


 そして、その双子は今別々にいる。

 同時になんてことは――不可能。


「――殺せますよ」


 そう言い出したのは犬のお姉さんだった。

 同時に地面が大きく揺れる。


「先ほど見ていた限り、再生するという感じでしたね」


 お姉さんの後ろに巨大な影。

 岩や泥がくっつきあった人形。

 泥の巨人ゴーレムと呼ぶに相応しいものが現れた。


「なら、再生できなくなるくらい、粉々のぺちょんぺちょんに潰してあげますよ!」


 その瞳は獣のように鋭く光った。


「いっけぇ!」


 お姉さんの指示に従ったゴーレムが、巨大な拳を振るう。

 風を乱しながら、クラヴィアへと近づき――


「その程度、息を吹きかければ十分ですわ」


 白髪の魔族が笑う。


「アビリティ――青い唇メロウフェロウ

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