第109話 青い唇

 彼女がアビリティを唱え、そして小さく息を吹きかけた。

 すると、迫っていたゴーレムの腕が先から砕けていき、破片はクラヴィアを避けるようにして飛び散ったのである。


「そんな!?」


 お姉さんが声を荒げる。


「俺の矢も効かなかった……なんだあのアビリティ」

「まさか……言霊」

「お兄さん、続けて大正解ですわ」


 俺の言葉に、クラヴィアが小さく拍手をする。


「ワタクシのアビリティ青い唇メロウフェロウは、言葉を現実にする。

 もちろん、それはあなた方の死もですのよ」


 全員に戦慄が走る。


 口は災いの元とは言うが……チートも大概にしてほしい。


『モード、聞こえるか!?』


 ギルマスの声。小さなゴーレムからだ。


『こちらにはラベイカとかいう魔族が現れた。

 そっちはもう片方の白いのだろうな……』

「おっしゃる通りです、ギルドマスター。

 こちらはクラヴィアと接触中。

 相手には攻撃が効かない上に、再生能力まであります。

 少年が言うには、同時に殺さなければ意味がないと」

『そういうことか……。

 こちらも再生は見させてもらった。すでに何人かがあいつの魔法でやられている』

「そんな……」


 そんな報告を聞いてか、クラヴィアはくつくつと笑い声を漏らす。


『モード、頼みがある。相手に聞き取られないようにしてくれ』

「そんなこと……」

「俺がやる!」


 おじさんが弩を構えてお姉さんへと向ける。


「聖なる力を纏いて加護の導きあれ

 アビリティ発動――弓聖-リリ-」


 光の矢が放たれると、お姉さんの前で破裂した。

 そして、お姉さんを覆うように半球の膜が現れる。


「これで、あの中の音はこっちに聞こえないし、こっちの音もあの中には届かねえ」

「ふぅん。まあいいですわ」

「お前は動くんじゃねえぞ」


 おじさんが弩をクラヴィアに向ける。


「私に効果があると思いまして?」

「やってみなきゃわからねえだろ?」


 クラヴィアとおじさんが視線を交わしながらも、互いに動かない。


 この状況、何かがおかしい。

 違和感が俺に纏わりつく。

 なぜクラヴィアは動かない……?


「ツムギ様」

「ツムギしゃん」


 オウカとクラビーが眉尻を下げて俺の顔を覗く。

 おじさんとお姉さんが戦っている中、俺たちは何もできていない。

 しかし、現状無理に動くのは足手まといになる可能性がある。

 だからといって何もせずに待っているわけには……。


「ツムギ様、おかしくありませんか?」

「……何がだ?」

「あの魔族のアビリティです」


 俺が感じている違和感はオウカも感じ取っていたらしい。


「あのアビリティには何か条件があると思うんです」

「条件……?」

「でないと、私たちはすでに死んでいるはずです」

「死んで……!?」


 そうだ。オウカの言う通りだ。

 ダメだな。今日は頭の回転が悪い。

 少し運動が必要だ。


 俺は歩き出した――クラヴィアの元へと。

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