第209話 破壊光線
「大層な詠唱だな。それだけ複雑かつ高度なのか?」
『滅びゆく、お前が、知る必要など、ない』
赫焉の翼は留まることなく大きさを増していく。
『世界を、飲み込めずとも、この一帯を、滅ぼすだけで、十分』
あのアビリティ自体もMP量に依存するのだろう。
1ヶ月の成長……レベル4桁ではまだ世界を滅ぼすには足りないみたいだ。
「その程度なら、止められる」
『ほざいていろ』
赫焉の翼が上下に大きく動く。
突風が王都に吹き荒れ建物の屋根が一部飛ばされていく。
放たれるまで放置していたら王都にも大きな被害が及ぶだろう。
俺には関係ない。
「その域なら俺も相手してやるよ。
だから見せてみろ、その取っておきの魔法を!」
『懺悔しろ!』
翼が広げられる。
世界が赤く照らされる。
そして翼の形を成していた焔が崩れだし、滝のように王都へと降り注ぐ。
この国をムスペルヘイムにでもしたいのか。北だぞここ。
まあそんなことはいい。
「ダアト、滅びをも喰らえ。
星の力をいまここに――アストロコード!」
空の星々の輝きがより一層強くなり、それに呼応するかのようにダアトの身体が光りだす。
俺は巻き込まれないようにダアトを土台に高く飛んだ。
そしてダアトの身体が粒子になる。一瞬散らばめられた煌めきはすぐに収束した。
再び着地した竜喰らいの皮膚には銀色に近い毛が生えており、顔をみれば鋭い瞳も二つある。
「やれ、ダアト」
『KRRRRRRRRRR!!』
鳴き声と共に翼が揺れる。
いつぞや見たアリヨクと同じように宇宙が閉じ込められたかのような模様をした翼。
それが輝きだすと、周りの星々も答えるように輝く。
ダアトが口を開くと光が集まり、そして焔の滝に向かって発射された。
破壊光線と呼ぶのが妥当だろう。
モスキート音のような甲高い音と共に放たれたそれは、焔を飲み込み巨大な爆発を巻き起こした。
『まさか……』
その光景に、竜は立ちすくみ動くことはなく。
信じられない光景を見たと言わんばかりに目を見開いたまま、光線に巻き込まれた。
破壊光線が放たれ終わると、ダアトが馬のように鼻を鳴らす。
上空の魔法陣が解け、太陽が再び顔を覗かせた。
空は一瞬にして青に戻り、王都に自然の明かりが差し込む。
「あれが、ベリルか」
空中には小さな火花がいくつか、地上に向かって落ちていく。
その中に一つ、他とは違う輝き方を見せるものがあった。
俺はダアトを近づかせてそれを手に取る。
赤い、宝石のような石だ。
これが
俺が手前に放り投げると、ダアトが首を伸ばしてそれを口にいれた。
飲み込む音がすると、ダアトの身体に赤色が一瞬だけ奔る。
「……ふぅうううう」
俺は大きく息を吐いて、心臓のある位置に手を当てた。
ようやく、ようやく終わったか。
赤竜ベリルを、倒した。
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