第346話 千本火針
「うるさいですよ、クラヴィアカツェン!!」
叫んだクラビーもクラヴィアに向かって掌を突き出す。
サイズなんて何百倍という差だ。
潰される、と咄嗟に思って動こうとしたが――
『がぬぁ!?』
巨大な掌が壁にでもぶつかったように弾き返される。
「いま大事な話をしてるんです」
「お、おいクラビー」
その光景に、口を開けたままにしていたことに気付いてすぐに塞ぐ。
クラビーは少し不機嫌そうに口を尖らせながらこちらを向いた。
「なんですか?」
「いまのは一体……」
「ああ、聖女の使える魔法みたいなものです」
魔法、ではないのか?
なんか拳法みたいな動きをしていたが。聖女ってそういうものなのだろうか。
「お前も、強くなったんだな……」
「そうですよ。ツムギさんたちが旅立った後、ギルドの受付嬢と冒険者を両立して、この五感の質も落とさないようにしたんですから」
目元を布で覆ってるクラビーはクラヴィアカツェンによって目を失った。
その後、エレミアのアビリティである
「すごいな……」
「ツムギさんから頂いたものですから。もう失うわけにはいきません」
俺の魔法じゃないんだけどな。
だからってあの巨体を跳ね返せるまで成長していたことに素直に驚く。
「それじゃあ、その精霊のところに行きますか?」
「いやまて、目の前のを何とかしよう」
クラビーが精霊を探しに行こうとするが慌てて止める。
さすがに目の前に魔族がいるのを放置するのはまずい。
それに生き残ってる面子が揃っているなら固まっていたほうがいい。他の場所はまだオウカを追いかけている連中もいるはずだ。
と、青いドラゴンがこちらに向かってきた。
突撃しそうな勢いで突っ込んでくるが、寸前でその姿が小さくなる。
「あいつしぶとい」
少女の姿になったエレミアが俺の元に駆け寄ってくる。
「原因は?」
「たぶんあの口を全部潰さないと死なない」
クラヴィアカツェンには数百か、もしくは千以上の口が張り付いている。
蓮コラみたいな気持ち悪さだけでも見ていたくないのに、襲ってくるのだから厄介極まりない。
「黙らせるのも一苦労しそうだな。
ダアト!」
呼ぶと、白いドラゴンがこちらに向かってくる。
入れ替わりにエレミアが元の姿に戻りクラヴィアカツェンの牽制に入った。
『主殿、状況判断としてルースの竜の心臓を頂きました』
「構わない。俺を背中に乗せてクラヴィアカツェンの真上に飛んでくれ」
いいながらダアトの背に飛び乗る。
そのまま上空へ。
『我輩が攻撃を受けることはないのですが、如何せん相手にも届かないみたいです』
「聞いている。安直な作戦だが、あの口まとめて塞いでみる」
上空にたどり着いたところで火魔法を発動させる。
やることは単純だ。
光本との模擬戦と同じように、魔法を同時発動させるだけ。
「だが、今回はエレミアがいる」
前回はステータスが素のままだったが、いまはエレミアを取り込んでいることで数値もドラゴン並みだ。
神経を集中させ、火球を次々と発動させている。
そしてそれを細い針の様な形にして、真下のクラヴィアカツェンに向ける。
どこぞの漫画の真似事だが、一気に終わらせるにはもってこいだ。
――千本火針
「まさかそれ全部ツボってわけでもないだろうしな。
嘘つきまくりのお前にはお似合いだ」
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