第347話 長話

『何をッ!?』

「いけ!」


 エレミアに気を取られていたクラヴィアカツェンがこちらに気付くと同時に、千の火を放つ。


『ごっ――!?』


 細く尖った火の針は一瞬にしてその巨大な腕に穴を開けた。


『主殿、やりましたね』

「……まだだ!」


 叫んだ瞬間、目の前の腕が動き出し、暴風を巻き起こしながらこちらに伸びてきた。


「ダアト、避けろ!」

『御意』


 白い翼を広げてダアトが上空へ急降下する。

 しかし腕は想像以上に伸びてきた。

 逃げ切れない。


 ダアトは別次元の存在。

 だからクラヴィアカツェンが触れようとしてもすり抜ける。そんなことはこの短い戦いの中でもあいつは理解しているはずだ。

 だから、狙いは俺!


 ダアトをすり抜けた掌が俺を握り締めて白い背中から引き剥がされる。


「くっ!?」

『主殿!』


 ダアトが急旋回をするが、


『攻撃できますか!?

 それ以上近づいたらツムギはぺちゃんこですよ!』


 クラヴィアカツェンが叫ぶ。


 俺は身動きがとれない。

 というか、全部の口を貫いたはずにも関わらず生きてやがる。

 いや、よく見れば腕の周りについてた口なんて一つも見当たらない。


『残念でしたー!』


 クラヴィアカツェンの声が耳元で聞こえる。そして目の前に一つの口が、腕を這うようにして移動してきた。


『クラヴィの口を全部潰せば倒せるという考えは大正解ですが、この口は一つになることも千になることも容易いんですよねえ』

「だからまとめて攻撃してくる直前に一つにまとまって避けたわけか」

『全部を避けるのが無理だとしても、一つくらいならなんとかなりますからねえ!

 このままあなたは握りつぶしてやりますよ!』

「いいのか? お前たちは勇者候補を殺す気がないみたいだが、俺もその一人なんだぞ?」

『だから殺されないと?

 残念ですけど、ぼっちなツムギは対象外!

 あなただけは確実に殺すとオールゼロ樣もやる気満々ですから!』


 俺だけは、か。

 いくら最初にアンセロを殺したからって、ここまで粘着を持たれる謂れはない。

 迷惑極まりない……が、さすがに何か思惑を感じる。


「随分とご執心してもらって悪いが――長話してていいのか?」

「せいッ!」


 俺の目の前に青い刀が落ちてきて、クラヴィアカツェンの口を貫いた。

 ここまでの会話はもちろん時間稼ぎである。

 エレミアとダアトは大きすぎて警戒されているにしても、


「すばしっこいオウカまでは見えてなかっただろ?」

『アアアアアアアァァァァァアアア!?!?!?』


 オウカがそのまま巨大な手首を切り落とすと、握っていた掌から力が抜けてやっと俺は解放された。


 

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