第179話 勝ち目はない

 周囲を見回すと、亜人らしき赤髪の全裸男と、倒れているオウカがいた。


◆オウカ ♀

 種族 :妖狐

 ジョブ:奴隷

 レベル:31

 HP :65/155

 MP :80/930

 攻撃力:310

 防御力:155

 敏捷性:620

 運命力:31


 アビリティ:夜目・燐火

 スキル:中級回復魔法・初級土魔法


 

 倒れているものの、死んではいないらしい。

 微かに緑色の光が見えるから、相手に気付かれないよう回復魔法をかけているのか。

 ということは、HP的に死にかけたなあいつ。


 やったのは……目の前の、この赤髪のトカゲっぽい奴か。


◆ベリル・ビクスバイト・ドラゴン

 種族 :ドラゴン

 レベル:275

 HP :2584/6875

 MP :4687/6875

 攻撃力:41250

 防御力:13750

 敏捷性:3300


 アビリティ:竜刻世界・輝煌色彩

 スキル:擬人化・火炎弾・竜威・竜息吹・幻視・逆鱗撃



 爬虫類っぽい尻尾が生えているなと思ったが、なるほど竜か。

 にしても、ステータスが低いな。


「ベリル、か。なんでドラゴンがこんなところにいるんだ?」

「ん、まあ、なんでお前、ベリルの名前知ってる?」

「質問に質問で返すなよ。教えなくても困らないだろ?」

「ん、まあ、そうだな。知り合いじゃないし」


 ベリルが俺に向けて腕を伸ばして――


「死ね?」


 広げた手のひらから火炎弾が放たれる。

 瞬時にシオンを抱き上げてそれを避けた。

 屋根がないおかげで動きやすい。一度屋外に出たところで、シオンを縛っていた縄を解く。


「もうすぐ魔法師団の奴がくるはずだから、そいつに拾ってもらってここから離れろ」

「ま、まって、ツムギ! あの男はダメ! 強すぎるわ!」


 シオンが焦った様子で俺のパーカーを掴む。

 俺は再度震えている手を握った。


「俺だって冒険者だ。特務Aランクだって貰ってる。大丈夫だ」

「ダメよ! オウカちゃんだってすごい力だしたのに、それでもやられちゃって……」


 シオンの瞳からまた涙が溢れる。

 オウカが善戦したらしい。キズナリストもないのにすごいな。経験の賜物か。


「なら大丈夫だ。俺はオウカより強いぞ?」

「でも……」


 不安が拭いきれないシオンが、子犬のような目でこちらを見つめる。ちょっと可愛い。


「じゃあさ、こうやって話しているのに、なんであいつは攻撃してこないんだろうな」

「え……?」


 俺の言葉に彼女は口をぽかんと開けて、それからベリルの方を見た。

 ベリルは立ったままこちらを睨んでいる。

 拳を握り締め怒り心頭と言わんばかりにふるふると震わせながらも、一歩も動かない。物語で会話を待つ優しい敵のようだ。

 しかし実際はそうじゃない。


「よう赤トカゲ、動けないか?」

「……」


 ぎろりと、目を見開いて俺の方を睨んでくる。

 しかし攻撃にかかることはできない。


「できないよなあ? 威圧プレッシャーが圧倒的に違うもんなあ?」


 いま俺はベリルに対してのみ、全力の竜威ゲウを発動させていた。

 ベリルは自身が震えていることが信じられないと言わんばかりに、その手をゆっくりと上げて見つめる。


「ん……まあ、お前、11番目……か?」

「11番目? なんか知らんが――俺はただの人類だ」


 眉を顰める竜に、俺は口角を吊り上げた。


「ダメだなベリル。

 絶望に至らないなら、お前に勝ち目はないぞ?」

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