第258話 ルース

 赤色のパーカーに黒のプリーツスカートの姿は、一目で学院の赤のクラスのものだと悟る。


「え、本当にツムギくんなの!?」


 ヒヨリは駆け足で俺に近づくと、両手を俺の胸に添えてからぐっと顔を近づけてくる。


「今は――」

「縺薙?蛹ゅ>縺ッ??シ?シ」


 再びダンジョン内に奇声が響き渡る。


「とにかく後だ!」

「あ、待って!」


 ヒヨリの制止を振り切って走り出す。

 他のクラスメイトも驚いた様子でいるがひとまず無視だ。


『敵を確認するだけなら、いまの人間と共に戦えばいいだろう?』


 影からマスグレイブが語り掛けてくる。


「いや、いまの声を聞いて気が変わった」

『声?』

「お前もそうだったよ。俺の影を喰らったからか今は喋れるようだが。

 あの耳障りな声がドラゴンのものだろ?」

『ククク……ご明察』


 マスグレイブと遭遇した時にも似たような音が響いていた。

 人間には聞き取れないが、竜語といったところだろう。咆哮とはまた別物に思えた。


 広々としたダンジョン内に一つ大きな岩を発見し、そこに飛び乗る。

 アイテムボックスから光明石を数個取り出して魔力を流し込み、光だしたところで各方面に投げる。


「どこだ……?」


 いるはず……だが気配を感じ取れない。


「マスグレイブ、お前さっきのが何のドラゴンか知っているんじゃないのか?」

『無論……あれが追いかけているは私だからな』

「だからあんな低層に逃げていたのか」


 小さな疑問に納得がいったところで、異界の眼を発動する。


 これでなら確実に見つけられるはず。

 そして――


「いた……?」


◆ルース・グランディディエ・ドラゴン

 種族 :ドラゴン

 レベル:2785

 HP :111400/111400

 MP :0/0

 攻撃力:55700

 防御力:167100

 敏捷性:167100


 アビリティ:竜刻世界・絶魔・幽泳


「ルース……またやっかいなステ振りだな」

『ほう、敵の力が見えるとな。素晴らしいな。やはり貴様は面白い』


 見えるのは俺だけじゃないのだが、突っ込んでいる余裕はない。

 MPがない奴は他の部分で面倒だったりするんだ。体力でアビリティ発動したりとか。

 だからこそこういう敵は気をつけなければならない。


 しかし――


「姿が見えない」


 ステータスは浮かび上がった。

 それもあちらこちらを魚のように動き回っている。

 だがその姿が一切見えない。


「地面の下を潜っているのか?」


 ならいつ上がってくるかも予想ができない以上、危険だ。


『逃げるか?』

「戦略的撤退と言ってもらいたいが、ところで、さっきあいつはなんて叫んでたのかわかるのか?」

『「雌だ雌だどこまでも追いかけて喰ろうてやる」と言っていたぞ?』


 そういえばドラゴンは子作り大好きだった。

 これは逃げ切れないパターンだな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る