第259話 セツナ

「しかし、敵が見えなきゃどうしようも……!?」


 対策を練っていると、突然足下の地面が盛り上がり始めた。


 真下にいる……!

 すかさず真上に跳ぶが――


「繝ィ繝シ繝ュ繝ャ繧、繝?ヲ繝シ?」

「なんっ!?」


 その地面から、まるで魚が跳ねるように黄土色のごついドラゴンが現れた。

 山椒魚に牙と爪を生やしたようなドラゴンは両側に2つずつある眼の焦点を俺に合わせる。

 そして大きく開かれた口が今にも飲み込もうと迫ってきた。


 空中では身動きが取れない。

 俺は、相手を土台に風魔法で勢いをつけて位置をずらそうと腕を伸ばした。


 だが、


「アビリティ――万翼樹エウルアレ!」


 身体に蔓のようなものが巻きついたかと思えば、そのまま引っ張られてルースから離れた場所に落ちた。


「ツムギくん、大丈夫!?」

「魔法で助けてくれたのか」


 すぐにヒヨリが駆け寄ってくる。

 クラスメイトの誰かがそういうアビリティを持っているのだろう。


「あのドラゴンに魔法を使ってもダメ!

 スキルもアビリティも、魔法が一切効かないんだよ!」

「えらい厄介な特性だな」


 アビリティにある絶魔ってやつだろ絶対。パッシブ効果は面倒だな。


「だがこのまま逃げても追われ続けるぞ」


 いや、あいつの目的がマスグレイブなら、こいつらは逃げられるのか。保証はないけど。

 俺はアイテムボックスから短剣を取り出す。


「お前ら武器は?」

「わたしたちは……みんな魔法で戦ってきたから」

「誰も近接戦闘はできないのか」

「でも、光本くんにも交信したし、このまま上層へ逃げて合流すれば、あっちには団長もいるよ!」


 そういえば、クラスメイトには団長がつきっきりだったな。

 というか、それならこっちにも何人か騎士をつけてほしい。なんで十数人の魔法使いだけパーティーを潜らせているんだ。バランス悪いだろ。


「紡車、あなた剣が使えるのね?」


 俺とヒヨリの間に、落ち着いた声音が割り込んできた。

 一人の少女が俺の前に立つ。

 赤いパーカーは腰に巻き、水色のスクールシャツは第一ボタンをはずしたラフなスタイル。灰色寄りの黒髪をボブヘアにした少女。

 首元に巻かれたグレーのマフラーには見覚えがあった。こいつは小学生くらいの時からこのスタイルだったはずだ。


「……両木か」

「忘れていてもよかったけど。

 ここは15階層。私たちは45階層から転移魔法を使って逃げてきている。

 にもかかわらず、あのドラゴンはダンジョンを泳いで追ってきた。

 最後の転移魔法で1階に戻ったとしても、他の人たちと合流するまでもたない。

 だから、可能なら紡車が時間稼ぎして」

「ちょっと、セツナ! ツムギくんはステータスが……」

「一撃だけでいい」


 見透かしたような両木の眼が俺を睨む。


「あの多い目ん玉を減らすくらいならできるだろ」

「ツムギくん!?」

「サポートはする。お願いした」


 やることが決まったところで、


「縺?s縺溘□縺阪∪縺√≠縺ゅ≠縺呻シ」


 ダンジョンの上を泳いでいたルースが、口を開いて落ちてきた。

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