第260話 僅かに
「逃げろおおお!」
クラスメイトの一人が叫び、全員が四方へ駆ける。
落ちてきたドラゴンはそのまま地面に潜り、岩を波のように跳ねさせた。
間一髪だったが、またすぐに来るだろう。
「逃げたいやつは早く行け! 多いほうが邪魔だ!」
散り散りになったクラスメイト達に向かって声を張り上げる。
ほとんどの生徒が転移魔法陣に向かって走り始めた。
残ったのはヒヨリと両木だけだ。
「援護する!
アビリティ――
両木の目が白色を帯びて光る。
「3秒後真下に来る! 右に避けて!」
「そういうことか!」
両木の言っていた援護の意味を理解して、支持に従う。
俺が右に跳ぶと、先程までいた場所の土が盛り上がりドラゴンの口先が飛び出してはまた潜っていく。
あいつのアビリティは未来予測的なものだろう。ここでドラゴンを止めなければ自分たちの身が危険になることも見えたのだろうか。
あれ、だとしたら俺がドラゴンと戦闘してどうなるかも見えてるのか?
勇者候補同士はステータスが見えないし俺の行動は見えないのかもしれない。じゃないと頼まないよな普通。
「上から岩!」
「おっと」
両木の声で思考から目の前の状況に意識を戻す。
ルースは海にでも入るような感じでダンジョンの中を泳ぐが、もちろんそこには波が発生するわけで、ドラゴンの身体に追いやられた土や岩が飛び跳ねるように飛んでくる。あれもちまちま受けていたら、こっちの動きも鈍くなるし、時々大きな岩も飛んでくるから要注意だ。
「見えない敵からの攻撃予測は難しいな」
現在の階は洞窟のような形をしており、低層とは違って広々としているから互いに動きやすい。逆をいえば相手の動きを掴みにくいのだ。
ゲーム見たく動きにパターンがある様子でもないから、攻撃のタイミングが見えてこない。
「だが、出てくるところが分かっていれば!」
「4秒後、真正面の壁から来る!」
剣を構えて正面へと走り出す。
大きさは把握した。速さも把握した。
相手の動きさえ鈍らせることができればそれでいい。
正面の壁が砕け、ルースが突っ込んでくる。
剣を視点の中心において相手の身体のギリギリのラインで――避ける!
巨大な牙が俺の真横を通り抜け――二つの眼が俺を見た!
「いっけえええええ!」
俺は魔力を帯びさせていない剣先を相手の眼に目掛けて突き刺した。
――が、当たったのは僅かに上の瞼あたり。
そこは見事に茶色の皮膚で覆われており、魔力の帯びてない剣先など簡単に折れてしまう。
外した、のではなく外された。
ドラゴンが首を左右に振ったのだ。
そして、当然大きく振られた顔は、相手のギリギリを避けた俺に直撃し、
――俺は数メートル吹き飛ばされた。
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