第261話 俺の根源

「うおおおお!?」


 全身で風を切っていくかと思えば、すぐに壁にぶつかった。

 その後は手馴れたもので、反射的にアイテムボックスを開いて回復薬を口にする。


 すぐさま二人が駆け寄ってくる。


「ツムギくん、ダメージは!?」

「壁にぶつかった衝撃の方が大きかった。大丈夫」

「気を付けて紡車。防御魔法とかも効かないから」


 ぶつかって飛ばされただけだから大きなダメージはないものの、ドラゴンとのステータスは月とすっぽん。気を抜けば一瞬で死んでもおかしくない。特に今回に限っては魔法もとい魔力が相手に対して反応しない以上、生身の戦闘と変わらない。


「やばいな、止められる気がしなくなってきた」

「上にさえ連れていかなければいい。

 これより上だと関係ない冒険者もいるから。

 なんとか、光本と団長が来るまで持たせて」


 両木は他の冒険者のことまで考えていたらしい、ダンジョンに潜る以上こういう危険も承知だとは思うが。


「縺翫▲縺サ縺翫♀縺翫♀?」

「来る!

 アビリティ――六眼エーデルアイズ!」


 再び両木の目が光る。しかし、その表情は急に青ざめた。


「なにこれ……」


 視線が俺に向けられる。


「紡車、何を」

「は? っておい後ろ!?」


 両木が何を疑問に思ったのか分からないが、それを考えるよりも先に、視界に入ったルースに向かって俺は駆け出した。


 二人の真後ろから現れたドラゴン。

 その距離が近すぎる。

 庇いきれない。


 いまここで、俺だけなら避けきって逃げることも可能だ。

 そうすれば俺は生きることができる。生き残ることができる。

 二人の犠牲は俺に関係あるか?

 この二人を守ったところで、俺の何になるというんだ。

 ならば――


『紡車くん、強くなろうね』


 激痛とともに脳裏をよぎる言葉。

 そうだ。俺はこの言葉で生きようと決めたんだ。

 そして、強くなれば、生きられると。



 そうか、俺の根源はここにあったのか。



 それが理解できたときには、すでに口が開いていた。


「アビリティ――絆喰らい!」


 転がっていた光明石に照らされて生まれた影が肥大化し、青い瞳と牙を覗かせる。

 そしてそれは、抉るように壁を破壊しながら、ドラゴンに向かって素早く伸びた。


虚飾ヘレル!」

「――――!」


 甲高い音とともに、影がドラゴンと衝突。

 一瞬にして相手を飲み込んだ。

 同時に、岩に亀裂が走って割れたような音が空間を揺らす。

 視界が揺れる。


「ダンジョンが!?」

「崩れる!?」


 女の声が二つ。

 しかし俺には耳鳴りと、翳んだ視界しかなくなっていた。

 身体が倒れそうになる。

 が、それを誰かに抱きしめられる。


「やっぱり――」


 その一言だけ聴こえて、俺の意識は完全に闇へと溶けた。

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