第375話 世界の歪み

 オールゼロに敗れ、虧喰らい(今はアイテムボックスに入れてある)によって貫かれた俺だった。

 オウカも巻き込み、奴が最後に放ったアビリティ『終焉パンドラ』によって存在ごと消滅させられた。かに思われた。

 しかしリーが事前にかけてくれていた精霊魔法によって奇跡的に復活した。


「精霊魔法によって焔の森に蘇生させられたとなれば、ここは精霊と何か深いかかわりがあるんだな?」

「そうですねー。焔の森は元々精霊の住処の一つだったんですよー。

 それに、この霊の聖域アーカディアにも繋がりやすいのですー」

「いまは居ないのか?」

「いますよー? 完全に精霊ではなくなりましたが」

「……エルフか」


 クィはエルフのことを『なりそこない』と言った。

 彼女たちの種族は妖精だった。


「妖精と精霊は違うのか」

「妖精は精霊になる前の存在ですよー。クィよりも一つ下ですねー」

「なるほど……なら、なんでなりそこないなんだ?」

「もう精霊にはなれないからですよー」


 その回答に俺は首を傾げる。いや、それ以外についてもだ。

 突然精霊が生まれるのではなくその前段階として妖精が存在する、というのは納得のいく話だ。であれば、精霊になる条件が存在するはず。条件が整っていないとしても、なりそこない呼ばわりするなんてことがあるだろうか。

 それにエルフたちはモンスターのステータス表示だった。ここも精霊と大きく違う。精霊は何かと契約しなければ存在できず(クィは世界と契約しているとリーは言っていた)、そのステータスも契約主で大きく変わるからなのか名前以外の表示がない。

 モンスターを作り出しているのはダンジョン。そのダンジョンを作り出しているのは大精霊のクィだ。ならばクィは何処から生まれたのだという話になってしまう。


「どうしてなれない?」


 疑問は湧いてくるが解に辿りつけない。素直に目の前の幼女に問いかける。


「世界の歪みの影響ですよー」

「世界の、歪み……?」


 ますます意味が分からない。

 疑問形で零れた俺の言葉を、クィが拾ってくれた。


「以前は妖精もクィたちに近い存在でした。これから精霊になる存在なのですから、当然ですねー。

 でも魔王様が死んでしまって、神様が飽きて世界を捨てた時、わずかな歪みが生じてしまったんですねー。

 それを埋めるために生まれたのがことわりちゃんで、世界を整えるために作られたのが、邪視なのですよー」


 そう言って、クィは瞼を開いた。


 それはまさしく、邪視と同じ――青い瞳。


 大精霊が小さな手を上げて人差し指を突き出す。

 指差した先は――オウカ。


「ね? 理ちゃんー?」

「……」


 予想外の言葉に、俺は思考が停止していた。

 ただ、クィの動作につられてオウカを見た。


 俺の後ろに立っていたオウカは。

 無言で、俯いていて。


 俺にはすぐわかった。

 雰囲気とか、感じ取れる魔力とかもあるが、もっと本能的な部分で。

 そこにいるのがオウカでないと。


 妖狐族の少女は白髪を揺らしながら顔を上げると、青い瞳で大精霊を見つめて。


 僅かに口角を吊り上げた。

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