第357話 その瞳は
***
「ツムギさん――――ッ!」
魔族に向かっていたツムギの横に突然手が現れ、そして彼の右腕と右脚が消し飛んだ。
「きゃあぁああっ!」
悲鳴。
それはツムギに向かって叫んだクラビーのものではなく、その後ろにいたクラスメイトたちのものだ。
倒れるツムギを見て、クラビーが動こうとすると、
「ダメだ!」
振り出した腕を光本に掴まれる。
「君は身体を操られているんだろ」
「そんなのとっくに解けましたよ!」
時間経過で解除されるタイプなのか、クラビーの身体は自由を取り戻していた。
「だから離してください!」
無理やり光本の手を引き剥がす。
「や、やべえよ」
「紡車が殺された……」
「わ、私たちどうなるの」
そんな声ばかりが聞こえてきて、クラビーの中に怒りがこみ上げてきた。
「何なんですかあなたたちは!
勇者候補じゃないんですか!
なんでツムギさんばかり戦わせるんですか!」
吐き出した言葉には誰も答えてくれない。
「もういいです!」
クラビーは駆け出した。
オウカがツムギに駆け寄ろうとしている。
しかしその奥で、オールゼロが魔法を放とうともしていた。
「オウカさん」
「ッ!?」
クラビーが叫ぶとオウカは顔を上げ、そしてすぐに状況を悟って動く。
「もうひとつ!」
オウカの尻尾が五尾になると同時に、オールゼロからは稲妻のような光が飛ばされた。
オウカはそれを魔力の障壁で跳ね返す。
「クラビーがあいつをなんとかします!
だからツムギさんを!」
オウカたちを飛び越えてクラビーがオールゼロへ向かう。
オウカの回復魔法でならツムギをなんとかできるというのはクラビーも承知している。
――だから、クラビーは。
少しでも引き付けて時間を稼ぐのが最善。
「どりゃあああああ!」
「ほう、盲目ながら我を捉えるか。
なるほど、五感が研ぎ澄まされているようだ」
迫るクラビーに対し、オールゼロが腕を伸ばした。
「では、それらがなければ君はただの聖女だ。
アビリティ――
瞬間、クラビーから感覚が消えた。
音も無く、臭いもなく。
乾いた口の中の味も、感触すらも。まるで自分の存在そのものまでもが消失したように。
オールゼロが手のひらを翻すと、突風が生まれ、クラビーが吹き飛んでいく。
「クラビーさん!」
ツムギの身体に回復魔法を掛けていたオウカは思わず叫んでしまう。
「さて、君たちは死んでもらわないと困る」
オールゼロの腕がオウカたちの方へ向けられる。
「ふむ、我も技を真似てみよう」
周辺に現れたのは、千本火針。
それだけではない。同じような形をした全ての属性の魔法が、オウカとツムギに向けられていた。
「では、さらばだ」
魔法が一斉に放たれる。
オウカは思考する。
回復を止めて魔法を止めることはできるかもしれない。しかし、ツムギを回復させるタイミングはもうなくなるだろう。
だが、このまま回復を続ければどちらも串刺しだ。
一か八かにかけるしかないと、オウカが回復魔法を止めようとした時、
「止めないでください!」
クラビーの声が響いた。
オウカは自然と、回復魔法を止めることを止めた。
オウカの眼前に人影が現れ、同時に青い障壁が周辺を覆う。
放たれた魔法は全て障壁に飲まれ消えていった。
「ほう、五感は全て消したはずだが?」
「クラビー、さん?」
目の前に立ち尽くす猫人族を見て、オウカの声が震える。彼女がそれほどの力を有してしないと、いるはずがないと、オウカは知っていたからだ。
しかし、猫耳をピンと立てたくらびーは、いつもと変わらない勝気な声音で告げる。
「クラビーだってですね、好きな人守れるなら、記憶だって、肉体だって、精神だって、んなもん全部捧げますよ。
どうせ叶わない恋なんだから、これくらい投げやりにならないとっ!」
クラビーがオウカへと振り返る。
「見えなかったので気付かなかったですけど、オウカさん真っ白で綺麗な髪になりましたね」
「そん、な」
クラビーは目元を隠していた布に手をかけ、引き千切るように取り外した。
「あの魔族、一発ぶん殴らないと気が済みませんね」
その瞳は、青く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます