第279話 中心にあるもの

「ツムギ様が、勇者候補!?」


 王城へ向かう馬車の中でオウカが驚きの声をあげた。


「聞かされていなかったのかい?」

「ツムギ様はあまりご自身のことを話されないので……。

 レイミア様はどうして?」

「立場上知る機会があったというだけさ。

 まあ、だから彼は他よりも強さが桁違いだったというわけだが」


 オウカは過去の冒険を振り返り、ツムギの強さの理由に合点がいく。


「ツムギ様みたいに強い方が他にもいて、皆さん王城に居られるんですか」

「そうだ、召喚したエル王女がこの国での世話をしているというわけだ。

 そして彼らの目的は魔王復活の阻止。それには魔族という存在は絶対に無視出来ない。

 だから、情報提供にいくわけだ」

「で、でもツムギ様は」


 オウカは王城での一件をレイミアに話す。

 自身のことを忘れられ、王女にも奴隷などいなかったと告げられたことだ。


「それはおかしいな。王女はツムギくんにオウカくんがいることは確かに知っているはずだし、まして学院での出来事を無視した発言だ。

 これも……魔族なのか?」


 であれば、状況は一刻を争う事態になりかねない。


 ――いや全てをひとつに括るのは早計だ。


 レイミアは揺れる馬車の中でじっと考える。

 ひとつずつ探る。


 まずは、ラセンとシオンについて。

 彼女達が突然妖狐族を嫌い始めたのは何故か。

 逆に捉えれば、何故自身は何事もなくオウカと一緒にいられるのか。


「オウカくん、私の元に来るまで誰に会った?」

「えっと、学院ではシオンお姉様や他の生徒の方々。

 その前に、ギルドでマティヴァさんにも会いました」

「あの人か……彼女は君が妖狐族だと知っているのかい?」

「はい。でもいつも通り接してくれました」


 ラセンとシオン

 レイミアとマティヴァ、そしてオウカ


 この区別の元になっている、中心にあるものは何かをレイミアは考え――少しばかり目を細めた。


「一つ確認したいんだが、シオンくんはツムギくんのことどう思っていたか聞いているかい?」

「お兄ちゃんみたいな存在だと言っていました」

「特別な好意を寄せていたとかは?」

「ないと、ご本人は言っていましたが」

「受付嬢の彼女は……まあ結婚の件もあってかツムギくんには随分と懐いていたな。確か以前王都にいた頃からの知り合いとか話していたか……ならば可能性はあるのか」

「あの、レイミア様、話が見えないのですが」


 レイミアはオウカにどう答えようかと、しばし目を瞑り考え込んで、それから口を開いた。


「これはあくまで、あくまでも可能性だが。

 ツムギくんに好意を抱いているものだけ正常じゃないかい?」

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