第278話 疑い
「ラセンさんを、殺した……?」
問いの意味がオウカには理解できなかった。
実際に殺されかけたのはオウカであるのだから当然だろう。
レイミアがすぐに答える。
「今朝方、王都でラセンの遺体が発見された」
「!? どうして……」
「聞きたいのはこっちのほうだ。ラセンのジョブは暗殺者だ。
にも関わらず、なぜラセンが死んで、君が生きている?」
「私は……わかりません。気付いたら路上で倒れてて」
「……ついてきたまえ」
憲兵が二人の様子を不審に思い何か話合い始めたことに気付いたレイミアは、オウカを貴族区域へと招き入れた。
二人でレルネー家へと戻ると、そこでもオウカへの視線は厳しいものだった。
残っているメイドたちはラセンのことも、オウカが妖狐族であることも知っている。レイミアに指示されて口外はしていない。しかし、今回の出来事でオウカを見る目は恨みや恐怖が込められていた。
レイミアはそんなメイドたちには何も言わず、オウカを連れて研究室に入った。かつて兄であるインギーが使っていた場所だ。
「さて」
薄暗い部屋の中で、レイミアはオウカの方へと振り返る。
そして、近くのテーブルに置いてあった杖を握り彼女へと向けた。
「なにを!?」
「昨日の記憶を見せてもらう。
精神魔法――
***
「どうやら、本当に君は何も知らないらしい」
魔法によってオウカの記憶を見たレイミアは、その記憶がラセンにナイフを刺されたところで終わっているのを確認した。
立たせていたオウカに椅子をすすめ、自身ももうひとつの椅子に座る。
「あの、いまのは」
「君の昨日の記憶を見ることができる魔法だ。
しかしよくあの状況から生きていたものだね。
ラセンのことだから確実に殺しにいっただろうに」
「私にもよく……でも、回復魔法を持っているので」
「なるほど。しかし、衣服まで戻る回復魔法は聞いたことがない。
それは本当に回復魔法なのかい?」
想定外の疑問に、オウカの額からは脂汗が滲む。
まだ疑われている。言葉を間違えれば殺されるかもしれないという恐怖があった。
「こ、これです」
なのでオウカは自身のステータス画面を表示してレイミアに見せた。
「……確かに回復魔法だ。疑って悪かった」
「いえ……」
「そもそも、君が私の元に来た時点で疑いは晴れているのだがね」
「え? どうしてですか」
「君がラセンを殺した罪悪感を抱いていたなら、絶対に私のところには来ないだろう?
最悪復讐されるかもしれない。
しかし君はここに来た。そしてラセンの死についても知らなかった。記憶を見たのは念の為さ」
「そ、そうだったんですか」
オウカが大きく息をする。緊張で呼吸がまともにできていなかったのが、疑いが晴れたことで落ち着きを取り戻した。
「さて、こうなると、君を刺したあとにラセンが火をつけたのは確かだろう。証拠を消すために。
その後、殺された。
昨日の彼女はおかしかった。シオンくんもおかしくなっている」
「シオンお姉様もですか……」
「会ったのかい?」
「はい……」
「そうか、それは辛い思いをしただろう。
もし、シオンくんの言葉が本意でなかったら、君は彼女を許せるかい」
「本意で、ない? どういうことですか!?」
「ラセンが殺された、シオンくんの君に対する態度も豹変した。
この突然の出来事――何者かの仕業と考えるのが道理だろう?」
「まさか……魔族!?」
「私はそう睨んでいる。
出掛けるぞ」
レイミアが立ち上がり、つられてオウカも立つ。
「どちらへ?」
「ツムギくん、いや――勇者候補一同の元へ」
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