第242話 脳華

 アンセロが自身の顔を覆っていた布を掴んで外した。

 覗かせたのは、赤茶色の瞳。

 

 ――待てよ、あいつは邪視持ちじゃなかったか?


◆アンセロ

 種族 :魔族

 レベル:446

 HP :4460/4460

 MP :4460/4460

 攻撃力:4460

 防御力:4460

 敏捷性:4460


 アビリティ:魔属適性・強制召喚・脳華

 スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法・上級雷魔法・上級光魔法・上級闇魔法・上級回復魔法・上級快復魔法・攻撃力上昇・防御力上昇・俊敏性上昇


 最初は気づかなかったが、いまのステータスに邪視の文字がない。

 オールゼロが作り直した、からなのか。

 いや、邪視とオールゼロは関わりがあった。必要であれば魔族は邪視を持っていてもおかしくないはず。

 邪視は呪いではあるが、その力が本物であることはオウカの戦いでも十分に理解している。邪視と協力関係にあり、その力を自在に取り込めるならリスクはあってないようなもの。


「邪視教から聞いてないか?

 俺を殺しちゃいけないらしいぞ?」


 思い出したのは、クラヴィアカツェンを倒した時のことだ。

 邪視教らしき青い鳥が、俺に死んでもらっては困ると言っていた。

 理由は分からない。

 いや、薄々感じているものはあるが……。


 ともかくとして、すっかり忘れていたのだが、オールゼロが俺を殺しに来るという話はいまないはずなのだ。


「ええ伺っておりますよ。

 しかしオールゼロ樣としてもそれは看過できないと」


 できないんかい。


「ですので、シナリオを速めて、邪視教も打つことになっております!」


 アンセロが目を光らせた。

 シナリオってなんだとかツッコミたいが、あいつのアビリティはかかるとまずい。


「アビリティ――脳華ヴァリアエ


 アンセロの視線は俺――ではなく、ダアトに向けられていた。


「AKRKRKRKRKKRKRK」


 ダアトが奇声を上げる。

 しまった、あいつは俺自身ではなくダアトを操って従わせるつもりだ。

 前回もエレミアを操って殺そうとしてきたじゃないか。


『早く召喚を解除したほうが良いぞ?』


 マスグレイブの声。

 そうか、俺が召喚しているのだから俺が元の次元に戻さなければならない。


「ダアト、戻れ!」


 叫ぶと、ダアトの身体が粒子となって消えた。

 これで大丈夫なのか?


「よそ見はよくない!」


 振り返ると、殺気が迫ってきていた。

 全身を横に振って避ける。床を転がるがすぐに体勢を立て直して相手を確認した。


「まじかよ」


 立っていたのはラセンさんだった。

 さらに、その奥から水魔法が飛んできた。火魔法を発動して相殺する。

 飛ばしてきたのはレイミアだ。


 つまり、俺が召喚の媒体になっていそうな間に、二人はアンセロによって操り人形になってしまったというわけだ。


「お仲間を、殺せますか?」


 アンセロがニタリと笑う。

 あいつの戦術は他者を使う。わかっていたことだ。


「3対1か」

「いいえ、3対2ですわよ」


 床を鞭で叩くような音と共に俺の横に立ったのは、妹メイドのフェリシアだった。


「どうやら、旦那様と私は本気で騙されていたようですわね」

「今頃目が覚めたか、まあ操られていたってことにしてやるよ」

「寝返るようで癪ですが、あなたが変な生き物を使って旦那様も連れ帰ってくれましたし、何より姉が敵にいる位置でないとやる気ができませんわ」


 こいつの基準は姉と敵対することなのか。


「私はちゃんと新しい奴隷魔法を提供したのに、騙されたとは心外ですねえ」

「素晴らしい魔法でしたわよ。ですが、それよりも主が最優先であるのがメイドですわ」


 フェリシアが鞭に仕込まれた短剣を抜く。

 しかし、あちらが一歩有利なのは変わらない。


「いや、同人数であればそうでもないか」

「そこに転がっている男でも使いますか?

 彼は私からみても魔法の才能のないただの豚ですが。

 ああそれともこの家の誰か? この実験室は外に音が漏れないよう作られているので、早々気付かれることはないですよ?」

「いや、お前の魔法が効かなそうな奴がいるよ」


 本当に聞かないかどうかは賭けだが、いないよりはマシだし、ダメなら帰すまでだ。


「アビリティ、絆喰らい――強欲アワリティア


 目の前に魔法陣が形成され、青白い粒子が集合していく。

 俺のステータスのリストにいるのは、ダアトと、もう一人。


「来い! ソ・リー!」


 部屋が一瞬だけ眩く輝き、目の前に黒いゴスロリの服を着た精霊が姿を現した。

 紫色の髪を大きく揺らしてこちらを向く。


「契約主ツムギの命に従い、ソ・リー華麗に参上いたしました。

 夜も深い時間ですが、お慰めの役に立てるかどうか」

「いや、そんな理由で呼ばねえよ……」

 

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