第311話 辻褄

***


「両木」

「……なに?」


 王城に戻ると日は既に暮れて、クラスメイト達は食堂に集まっていた。

 乱暴に扉を開いた俺に皆が驚いた顔を見せるが、それを無視して両木に近づくとその両肩を強くつかむ。


「痛いんだけど」

「……いつから、いつからバルバットのこと気付いてた?」

「……アビリティの能力を知ってから……この世界に来て、数週間後」

「どうして伝えなかった!」


 テーブルを強く叩きつける。

 男子が数人動いて「やめろ紡車!」と俺の身体を抑えてくる。


「あなたは、まだ」

「俺はいい。だが他の奴らには言えただろ!」

「あの頃の私たちはこの世界を何も知らないひよっこだった。

 そんな状況で伝えられるわけない」

「だからって黙り続けてたのか!」

「仕方なかった。力がついた頃にはみんな団長に懐いていた。

 今更言っても遅いと判断しただけ」

「もっと早ければ……まだ何か――」


 いや、これも相手の作戦だったのか。

 勇者が召喚されるなら王城。事前に魔族を入り込ませておかえば、すぐに対応ができる。

 オールゼロは勇者候補が召喚されたことも知ったうえで今まで動いていた、となれば、俺たちが召喚されてから魔族やドラゴンの動きが活発になったことも納得できる。


 すべて相手の手中。


「紡車くん、どういうことだ」


 俺の身体から力が抜けたせいか、男子たちから解放される。

 代わりに、光本が戸惑った表情で近づいてきた。


「……騎士団団長バルバット・レートロードが、魔族だった」


 教室にざわつく。俺は続ける。


「エル王女の行方が分からない。俺とカイロスで捜索していたところ、バルバットが待ち構えていた。

 俺はエル王女を探しに来た。

 そうだ、お前たちならキズナリストを結んでいる。交信できないか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 団長が魔族? 魔法師団長と戦っている?」

「事実だ受け入れてくれ」


 そうはいっても、彼らはずっと団長の指導を受けてレベルを上げてきたはずだ。

 そんな相手が敵だったと言って、


「おい、紡車が嘘を言ってるか、騙されてる可能性もあるだろ」


 そう考えるのは当然だ。


「そいつは俺らと違ってステータスも上がらないんだろ?

 なら敵の魔法にまんまとやられている可能性も」

「それはない、騎士団長は魔族だったことは、私のアビリティが保証する。

 あなたのステータスもアビリティも全部言う?」


 両木のフォローで文句を言った生徒が黙り込む。

 しかし、それで受け入れるわけでもない。

 全員の表情と、食堂の空気が重いものに変わる。


 光本が口を開く。


「魔法師団長はいま……」

「バルバットと一緒に、空間魔法でどこかに消えた。

 たぶんまだ、戦っているだろうが、助けには行けない」


 俺の答えに、光本は唇を思い切り噛む。口の端から血が零れた。


「分かった……とにかくエルだね」


 光本が首元の数字に手を当てる。

 しばらくして――


「ああ、エル。コウキだけど。

 君が誘拐されたと聞いたんだが」


 声は脳内に直接響くから俺たちには聞こえないが、どうやらエルが出たらしい。


「……ああそうなんだ。

 それじゃあ大丈夫なんだね。

 いや、紡車くんと魔法師団長が教会に行っても会えなかったというから……うん、ああそうなんだ。忙しい時に悪かったね。

 うん、明日の演説楽しみにしているよ。その後また話そう」


 交信が終えられる。


「エルは教会で儀式をしている。

 誰も通さないようお願いしていたらしい」

「まさか……カイロスもか?」

「うん、たとえ団長クラスでもだ。今回は忙しいからと。

 でも明日の学院演説には登壇するから、その後で現状を伝えよう」


 エル王女は無事……?

 俺とカイロスが早とちりしたのか?


「いや、待ってくれ。ならどうしてバルバットが待ち構えていた。

 エルを攫ったて行方不明になったからこそ俺らが動いて……」

「逆手に取られたんじゃなのかい?

 エル王女が誰とも会わない状態になり、それを騎士団長が伝えなければ、魔法師団長が勝手に動くと」


 辻褄は合う。本当にそうなのか?


「ともかく、騎士団長が魔族と言うのが事実なら、魔族が動き出した可能性がある。

 明日エルと話し合って、国にも協力して貰おう。団長が二人もいないというのは、騎士団魔法師団には大きいことだし、何より僕たちもその事実に驚いて心の整理がついていない」


 エル王女の安全が確認できなければ、自分の目で確かめなければいけない。


「……わかった」


 適当な返事をして、俺は食堂を出た。

 一人で教会に向かうために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る