第231話 死の宣告

「うっ!?」


 全身を虫が這うような気色悪さに襲われる。

 やっと耳から離れた腕が剣を振るうが、俺の身体を通過した影をすり抜ける。

 物理的ダメージが効かないのかよ面倒だな!


 影がまた暗闇へ消えると同時に俺はステータスを確認する。

 変動はない。しかし、何かされたのには違いない

 ステータスにでないのなら呪いかなにかだ。

 身体中を見回す。外見的な変化は――


「なっ!?」


 あるべきものが消えていた。


 俺の影だ。

 影を喰われた。


「実に素晴らしい!

 脆弱な形でありながら、こうも心地がいいとは!

 やはりふたつの脚であれば、地に引かれる力が減るのであるな。

 我輩の頭脳も幾分か軽く感じる!」


 影の消えた方から、老父のような渋い声が聞こえてきた。

 今度は這う音とは違い、人の歩いてくる音が響く。


「おいおい、冗談じゃねえぞ」

「残念ながら冗談を宣うのは貴様たち人類くらいである」


 暗闇から現れ、光明石に照らされたその姿は――俺だった。


 見た目も服装も全てが今の俺を鏡に写したよう。

 もう一人の俺が目の前に現れたのだ。


「お初お目にかかります。

 我輩はツムギ。魔法師、らしいのだが?」

「お前……」


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:60

 HP :450/450

 MP :880/880

 攻撃力:600

 防御力:660

 敏捷性:600

 運命力:60


 表示されたステータスは完全に俺のものだ。

 こいつが、ドラゴンなのか?


「改めて伺おう。

 捕食者が如何にしてこのような餌もない場所に?」


 捕食者。こいつ、俺が絆喰らいを持っていることを知っているのか。

 影を奪った時? いや改めてというからには、あの煩い声の時からか。


「お前みたいなのを喰らうためだよ」

「それはそれは、わざわざご足労いただき迷惑至極なことで」

「お前は何者だ」

「我輩は優雅に地を這う者だが?」

「者? ドラゴン、だろ?」

「ほう、その気配の味を知っているとは、貴様はなかなか運がいいとみる」


 やはりドラゴンで間違いないらしい。

 見た目俺のドラゴンがどろりと溶けて影になる。


「この味を知って帰れる人類など、そうはいない」

「!?」


 正面から堂々と殺気が流れ込んできたので、咄嗟に剣を構える。

 しかし、何もきていないにも関わらず、刃先に火花が散った。


 殺気だけで攻撃された?

 いや違う。あいつは影、透明と考えるべきか。

 見えないドラゴンだ。


「真実の褒美に教えてしんぜよう。

 魔の頂に立つ十の竜が一頭。

 影の捕食者――マスグレイブ・ターフェアイト・ドラゴンである」


 ダンジョンに、死の宣告が響き渡る。

 

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