第47話 キズナアビリティ

「ィィДィィДィィ……」


 ゴブリンが歯ぎしりのような音を立てながら歩いてくる。

 思わず息を飲む。小さな音でも森の中に響くような錯覚に陥る。


「なんで、あんなのが」

「ご主人様、あのモンスターは……」

「ゴブリン、だが」


 掠れた息のような小声でオウカと言葉を交わす。

 身体に血液の感覚が戻ってくる。痺れが切れたか。だからと言って動ける状況ではないが。

 ゴブリンはモノの動きに反応する。以前戦ったゴブリンも全てそうだった。

 しかし、音にはなぜか反応しない。小さな声での会話程度なら気付かれることはない。

 だというのに、どうして俺たちのところに……?

 カンテラ程度の明かりなら分からないはずだが。

 いや、それ以上の明かり……キズナ召喚のせいか。

 召喚時の光によって影が揺れたせいだろう。


 髑髏が横を通り過ぎていく。気配を殺していれば見つからずにやり過ごせそうだ。


「スカルヘッド・ゴブリン……通常のゴブリンの中では最上位のモンスターだ」

「さいっ!? ……なんでそんなモンスターがここに?」

「……ダンジョン、か」


 ゴブリンというモンスターそのものは弱い。

 しかし極まれに強力なゴブリンが現れるという話を王都の図書館で読んだことがある。

 最初はただのゴブリンだが他より力を持っており、やがて人を襲うようになる。

 そして殺した人間の皮を剥ぎ、肉を削ぎ、倒した証として頭蓋骨を被るらしい。

 つまり、頭蓋骨を被っているゴブリンは人を殺せるレベルということ。

 それだけで要注意モンスターだ。


 そんなモンスターが街近くの森にいるというのがおかしな話なのだが。

 あの頭蓋骨はネイクラさんで間違いないだろう。数日前にスカルヘッドに変態したばかりのはずだ。

 にしてもレベルが高すぎる。レベルが三桁になるまでダンジョンが放置されていた……?

 それなら、他のモンスターも……。


「ゴブリンじゃないですか」


 センが過ぎ去ろうとするスカルヘッドを見つめ、鼻で笑ったような声を発した。


「ゴブリン程度なら、ナナとのキズナアビリティで倒せますよ」

「うん、倒そう、セン」


 二人がゆっくりと姿勢を変え、互いの手を繋ぐ。


「おい、まて、まさか」

「キズナリストの強さ、見せつけてやりますよ」


 センが口角を上げる。

 ナナは不安と、それでも戦う決意をした複雑な表情をしていた。


 ――やはりあの二人が持っていたのはキズナアビリティか。


 アビリティは種族や個人のみに与えられた、他が真似できない、所謂ユニークスキルというのがこの世界での認識だ。

 その中でキズナリストに登録した相手と同名のアビリティを手にすることがある……そういう能力は仲間がいて本領を発揮するものだ。

 俺が受けたセンのアビリティは長時間麻痺を受ける程度のものだった。

 しかし、それは本来の力ではない。

 同名のアビリティを持つナナがいる今なら……。 


「キズナアビリティ――七閃セプ-電-・アラメイ!」

「キズナアビリティ――七閃セプ-雷-・ソヴィオト!」


 二人が青白く光り、形が消え、


 ――七つの雷鳴が、轟いた。

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