第46話 頭蓋骨

「ご、ごめんなさい。村の生活を安定させるために、早く上位のクエストを受けないといけないんです」

「おい、こっちが優勢なのにそんなことするなよ」


 ペコペコと頭を下げるナナに対してセンが咎める。

 根が悪い奴らではないことは確かだろう。


 上位のクエストを受けたい気持ちもわかる。

 下位のクエストはお手伝いじみたことばかりだ。報酬だってそんな高くない。初心者向けの効率の悪い仕事しかない。

 だから早めにランクを上げて報酬の高いクエストを受けようとする。

 現に俺もそれが目的なのだからお互い様である。


「素直にギルドカードを渡せば、オウカにまで手を出さないでくれるか?」

「そうですね……昇格できればいいので、あなた方が報復しないと約束してくれるのなら」


 仕方ない。オウカとキズナリストを交わしている以上、ステータスは不利だ。それに、俺だけならまだしも、戦闘経験の浅いオウカまで危険に晒す理由がない。

 昇格は遠くなってしまうが、致し方ない。

 急いだ俺の失敗だ。帰ったらギルマスに笑われるだろうな。


「わかった……」

「ありがとうございます」

「オウカ、ギルドカードを渡してきてくれ」

「……はい」


 落ち込んだ様子でオウカが落ちていたギルドカードを拾い上げる。

 オウカがセンたちに近づきカードを差し出すが、彼は警戒を崩さないまま受け取った。


「一つお願いがある」

「なんですか?」

「オウカ……彼女が妖狐であることは黙っていてくれないか」

「……これ以上関わらないでくれるなら、いいでしょう」

「ありがとう」


 とりあえず、オウカのことが他に知られる心配はないか。

 当の本人は、


「…………」


 センを、いや――センとナナのさらに奥の森を見つめていた。

 まるで、家の猫が何もない場所を見つめるかのようだった。

 だがここは森の中だ。何もない可能性の方が低い。


「何かが……近づいてきています」


 その言葉に、センとナナの警戒が後ろに向く。

 オウカも視線を外さずに俺の元まで下がってくる。


「オウカ、なにが見えた?」

「モンスターらしき……いえ、人の頭の、骨?」


 オウカの曖昧な情報を頭の中で繋げていく。

 ――――頭蓋骨!?


 咄嗟に俺は叫んでいた。


「全員動くな!」


 俺の大声に、センとナナが一瞬肩を揺らしてこちらを振り向く。


「な、なんで」

「いいから言うこと聞け! 動きは最小限、呼吸も小さくしろ! 動作という動作をギリギリまで殺せ! オウカも! カンテラを回収してくれ!」


 オウカは「はい!」と答えるとカンテラをアイテムボックスにしまい、頭巾を被り直した。

 さすが亜人というべきか、獲物を狙う獣のようにピタリと動きが止まる。

 俺は痺れたままのせいで動くことなんて当然できない。


 暗闇が視界を侵食し、静寂が訪れたのも束の間。

 ガサリ、と茂みが揺れた――瞬間、カマイタチの様な風が舞う。

 切られた草が上空を飛び交い、木の枝が踊るように揺れる。


 微かな月明かりの中で、俺たちは相手の姿を捉えた。


 奴らの基本特性は、動くものに反応すること。


 全身の肌が緑色の小さな身躯しんく

 その右手には紫色の禍々しい模様が刻まれた、黒の長剣が握られている。

 尖った耳は確認できるが、その顔と表情を伺うことは出来ない。

 なぜなら、そのモンスターは顔を覆うように頭蓋骨を被っているからだ。


◆スカルヘッド・ゴブリン

 種族 :ゴブリン

 レベル:120

 HP :988/988

 MP :0/0

 攻撃力:865

 防御力:1112

 敏捷性:3895


 スキル:駿足


 あいつは、やばい。

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