第166話 交信

 次の講義が移動教室だということで、シオンと廊下を歩いていると、


「き、貴様は昨日の……!」


 ぼっちで廊下を歩くウェイくんに遭遇した。


「あら? 昨日はクラスの女の子をあんなに侍らせていたのに、今日はぼっちなのね」


 シオンが悪い笑みを浮かべて喧嘩を吹っ掛けにいく。

 やめなさい。その言葉は流れ弾として俺にも当たる。


「う、うるさい! 貴様たちが卑怯な手を使ったから」

「先に攻撃の効かない霊獣とかいうのを使ったのはそっちだったと思うけどお?」


 商人故か口喧嘩には自信があるようで。といっても、クロノスがそんなに上手なわけでもないし。


「それよりもあなた、負けたんだからCクラスやめたら?」

「ふん、あんな卑怯な方法で貴様たちが勝った決闘など無効だ。

 レイミア・レルネーにも言われているだろ」


 プライドとかそういうのはないのか。何としてでも倒そうとしてきた時のほうがいくらかかっこよかったぞ。

 まあ、今更決闘の結果とか賭けとか興味ないが。


「貴様は必ず痛い目に合わせてやる!

 この学校には王女の付き人が入学したと聞いた。

 そいつを取り込めばお前なんて一瞬で終わりさ!」

「……あー、黒ローブのか?」

「そうだ! 王女の付き人ならAクラス必至!

 すぐに見つけて貴様と戦わせてやろう」


 どうやら、黒ローブが俺だというところまでは至っていないらしい。

 確かに、俺の姿を見たのはGクラスと教員だけか。

 その教員も、今日のうちに誤解だったと言っているし。

 当分はバレる心配もなさそうである。


「はっ! 馬鹿ねあなた。それは――っ!?」


 ネタばれしそうなシオンの口元を咄嗟に抑える。


「そうだなあ。王女の付き人じゃかなわないかもなあ。

 いやあ、こわいこわい」

「ふふ、首を洗って待っているがいい!」


 こういう子は、とりあえず自分が優位だと思わせておいて満足させておこう。

 黒ローブの人、見つかるといいですね。


「っぱぁ! そういえばあなた昨日――」

「ん?」


 俺の手から脱出したシオンがさらに突っ掛かろうとすると、クロノスは待てと言わんばかりに手を前に出す。

 もう片方の手で何やら不思議な動作をして耳元に当てる。


「兄様? 珍しいですね。如何なされたんです?」


 あれが交信というやつか? 傍から見れば携帯無線機を使っているようだ。


「昨日のですか……だからそれは――え、いま学院内にいらっしゃる!?」


 クロノスが何やら慌てた様子になる。


「クロノス!」


 俺とシオンの後方から、クロノスを呼ぶ声がした。

 呼ばれた当人は顔を青く染め上げる。

 振り返ってみると、白いローブを着た男がこちらへと歩いてきた。

 

 あの格好は、王国魔法師団の人か。


「ようやく見つ……貴様は」


 男が俺を見て目を細めた。

 俺自身も、相手に見覚えがある。

 

「あ、霊獣に蹴り飛ばされて気絶してた人じゃない!」


 なんなら、シオンもである。

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