第167話 カイロス・ネメア

「こんな小さな子にまで見られていたのか」

「小さくないわよ平均くらいよ」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる男に対して、シオンは口を尖らせる。

 確かに白いローブがよく目立つ細身で身長の男だ。2メートル近くはあるんじゃないだろうか。

 ここにいる全員が見下ろされている形になる。


「に、兄様、こいつです。この男が盗人です」


 その内の一人があたふたと手を振る。

 盗人とはなんの話か。


「貴様、いま腕輪をつけているか?」

「ああ……」


 魔法師団の男に問われて、状況に納得しつつ腕輪を見せる。

 この腕輪は王女に貰ったものだが、そんなことクロノスが知る由もない。だから俺が研究所から盗んだと考えに至ったのだろう。

 それで、製作者に連絡したのだ。


「ふむ、クロノス。僕は彼と話がある」

「し、しかし」

「ネメア家に恥じぬようしっかりと勉学に励め」


 それだけ言い残して、男は踵を返す。

 ついて来いというわけか。


「シオン、悪いが先に行っていてくれ」

「なんでよ」

「なんでもだ」


 声のトーンを落とすと、何か察してくれたのか彼女は不満げな様子ながらもフンと鼻を鳴らして教室へと向かっていった。


 ***


「まだ名乗っていなかったな。

 カイロス・ネメアだ。

 貴様はツムギだったかな。よく覚えている」


 目の前で紅茶を啜るカイロスはフードを外して、その煌びやかな金の髪を風に靡かせている。

 カップを一口運ぶ度、周りの女子が嬌声にも似た声を湧かせた。


 学院に設置された屋外のテラス。何故かそこで男同士のお茶会だ。

 どこからともなく現れた執事姿の女性が、俺にティーカップを差し出す。

 礼を言うと、男も顔負けの爽やかな笑みを返してくれた。

 そして、カイロスのカップにおかわりを入れ、彼から礼を言われると「キャ」と女性らしい声を上げ、顔を赤くし女子の群がる方へと走っていった。


「最初に貴様に会ったのは召喚のときか」

「……まあ、そうだな」


 こんな状況で普通に会話するのかよ。

 まあ、用件だけ済ませてくれればいい。


「あの時は突然魔法をぶつけて悪かった」

「状況としては正解だったと思うよ」

「貴様にそう言われるとはな……エルにはこぴっどく叱られたよ」


 この異世界に召喚された日。俺にはステータスが上がらない何かがあると、カイロスは魔法を放ってきた。

 あのあとエルには何度も謝られたし、今更気にするようなことでもないだろう。


「ステ―タスが上がらないにも関わらず、騎士団の連中にいじめられながらも愚直に鍛錬を続け、最後には地下での騒ぎだ」


 いじめられてたこと知ってたのかよ。助けろよ。


「あの後、コウキと戦っただろ」

「見てたのか」

「たまたま通りかかってな。

 貴様は意外にも、魔法の才能を見せてくれたな」


 そんなもの、あったっけ?

 ぼこぼこにされた記憶しかない。

 てか、思い出話まだ続くんですかね……予鈴が鳴ったんだけど。

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