魔王復活(魔王城)

第387話 魔王より重要な存在

 俺とオウカは、オールゼロに一度倒された。

 その後、他の勇者候補クラスメイトがどうなったかは分からない。

 ただ、光本が勇者として覚醒したのは覚えている。

 勇者が誕生した以上、オールゼロが黙っているとも思えないし、だからといって光本がその場でやられたとも思いたくはない。


「どちらにせよ、学院に現れたオールゼロは本物じゃなかった」

「以前ツムギ様も使った、魔力を流すことで動く人形ですか?」

「そうだ」


 オウカの確認に俺は首肯する。


「そもそもあの人形がどこから流れてきたか考えれば、十中八九ライムサイザーだ。

 となれば、オールゼロが似たようなものを持っていてもおかしくはない」


 人形が使われた時は、スライム型の魔族であるライムサイザーが学院に忍び込んでいた時だ。


「それで、本人は魔王城にいると?」

「魔王を復活させるなら、やはり魔王城を拠点にするのが一番だろう。

 この焔の森に魔王城があることは有名で、それ故に人はめったに近づかない。

 実際近づいた俺たちも迷子になったしな」


 魔王城には結界が張られており、普通に森の中を歩いているだけでは絶対に辿り着けないことは、この身をもって体験した。


「そこでクィなのですよー」


 大樹の外で話し合っていた俺とオウカ。

 その目の前でちょこんと待っていたクィがない胸を張った。


「聖域を経由すれば結界なんて関係ないのですねー」


 そう言ってクィが手を前に伸ばすと、そこの空間が少しだけ朧けな見た目になる。

 俺たちはクィのあとに続いて聖域を抜け出した。

 薄い膜に包まれるような感覚を抜け出した先にあったのは、上から見た時とおなじ灰色の城。魔王城だ。


 実はこの提案をしてくれたのはクィで、過去の勇者もこの方法で魔王城に入ったらしい。

 まあ、勇者というか神だが。入り方も分かっていたんだろうな。


「さて……」


 意識を魔王城へ戻す。

 特に誰かいると言った気配はない。

 大きな入口も開いたままだし(というか扉の類がついていない)、門番がいるわけでもない。


 覚悟を決めて中へと入る。

 最初に俺、続いてオウカ、クィ。

 中はしんと静まり返り、冷気だけがゆっくりと頬を撫でていく。

 広い入口というか、広間というか。薄暗さと人気のなさが妙に不気味な空間が広がっている。


 奥には二階に上がるための長めの階段があり、昇り切った先に黒い扉があった。

 黒い国会議事堂みたいだな、と思ったのは俺だけだろう。中学の頃に見学したのをなんとなく思い出した。

 ともかくとして、階段を進んで扉の前へ向かおうと――した時だった。


 上の方から、靴の音が響いた。

 俺とオウカは警戒心を高める。

 クィはなんてことなさそうに頭を左右に揺らしてニコニコと笑みを浮かべているだけだ。

 音のする方へ、俺は異界の眼を発動した。


「……!」


 当然、いなければおかしいのだ。

 そして、新たな目的の一つでありながら、他のことで抜けていた節もある。

 光本や王国の民にとっては、魔王より重要な存在かもしれない。


「ツムギ様……!」

「エル……」


 階段の脇から現れ、驚きの表情を見せたのは、誘拐された王女だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る