第58話 無様

「うわああああああああああああ!!」


 認められない、認めたくない結果を頭の中から消し去ろうとして叫んだ。


「はーっ! 無様! 実に無様! 小便臭い子供の見事な落ちに私も笑いが止まりませんよ!

 しかしながらその姿は見ていて堪らない! 裏切られた人間の顔は非常に美味!」


 アンセロがケタケタと笑う。


「ほらほらぁ、ステータス覗いて御覧なさい。自分の姿がよくわかる」


 なぜか、言われるがままにステータスを開いてしまう。


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:56

 HP :0/500


「ぜ……」


 それはすなわち、


 死。


「――――くふ」

「あぁ?」

「ぁは、くふ、はははは!」


 こみ上げてきたのは笑いだった。

 カチリ、カチリとピースが当てはまった。

 完成した。

 笑って、笑って、笑って。


「ふざけんなよおいいいいいいいいいい!!」


 怒りに変換される。


「じゃあなんだ、最初から俺をはめる気でオウカを差し出して!

 こうしてダンジョンでボスをしてたわけだ!

 魔族が! たかがひとりのぼっちを! 追い詰めるためにかぁあああ!」

「ええ、ええ! そうです! そうですよ! 孤高を気取ったあなたを! 孤独なあなたを殺すために! これだけの舞台を用意させていただきました!」


 己の歓喜を表現するかのようにくるくると回るアンセロ。

 そいつに向かって火球を放つ。

 しかし、奴は防御の体勢を取らない。

 ――火球が二人の目の前で壁にでもぶつかったように霧散した。


「記憶が無いのもわざとかああああ!? 愛想振りまかせてえ? 可愛がらせるためかああああああ!?」

「頭刺されたのに元気ですねえ! 早く死んでいただけませんか!」


 火魔法、水魔法、風魔法、土魔法。

 魔法師のジョブを手にしてから使えるようになった魔法を何発も放つ。

 しかし、目の前の魔族には届かない。

 目の前に透明な壁でもあるかのように、かすりもせず消える。


「ほらほら、当たらないですよ。命中率が悪いようですねえ?

 動きすぎると頭に刺さったダガーが抜けて血が出てしまいますよぉ?」

「うるさい!」


 叫んだところで魔法が当たることはなく。


「呪いをつけたスカルヘッドを倒してここに誘導して、最後に絶望顔でも拝みたかったのかよおおおおおおぉおおお!」


 オウカを睨む。

 彼女は答えることをせず、表情を崩さず、こちらを冷たい目で見ているだけだ。


「オウカあああああああああああ!」


 俺は短剣を振り上げ 、





 ――後方を切りつけた。


「なっ――!?」


 魔族の声と、確かな感触。

 俺の後ろには、手の届かない距離で笑っていたはずのアンセロ。その胸元が短剣によって切裂かれ、赤い血が滲みだしていた。

 そして奴の足元には虚ろな目で膝をついたオウカがいた。

 俺の額にはダガーなど突き刺さっていない。


「な、ぜっ!?」

「知ってたよ、全部幻覚だって。

 いい目を持っているからなあ?」


 俺の言葉に、魔族が初めて顔を歪める。


「俺とオウカが主従関係にあると思っていたなら大間違いだ。

 オウカはもう俺のことを『ご主人様』とは呼ばねえんだよ!」

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