第240話 強欲
白と赤が斑に広がる。
どこだここは。何だこれは。
手を伸ばしても何にも触れられない。
「ぶぎゃああああああああああ!」
叫び声が響き渡る。
見渡すと、座り込んでいるマティヴァさんと、身体が赤黒くなったインギーがいた。
「なんでぇぇえ! 我がこうなるはずはアアア!」
叫びながら、インギーは這いつくばってマティヴァさんに近付こうとする。
「マティヴァあ! 貴様さえ手に入れれば、国王の唯一の弱みであるお前がいれば、我は成り上がれるのだ!
我を見下したものすべてを叩き潰せるのだ!」
インギーの身体が徐々に黒一色へと変色し始める。
いや、奴だけじゃない。マティヴァさんと俺もだ。
「まずい、マティヴァさん!」
しかし彼女は反応しない。
駆け寄って肩を揺らすが、目は虚ろで魂でも抜けたかのような状態だ。
その間にも、身体の変色化は進む。
『お困りのようだね?』
どこからともなく声がした。
『しかし、貴様にはこの状況を乗り越える力があるはずだ』
声は、影からした。
「まさか、マスグレイブなのか!?」
『これはクランの匂いか。
我輩としても彼女に復活されては困るし、一緒に 吸収されたくないぞ?』
いなくなったと思っていたが、俺の影に潜んでいたのか。
この状況を打開できるとすれば、竜喰らいのダアトを呼び出すことだ。
「だが腕輪を使うには魔力が足りなすぎる」
エルから預かっている銀の腕輪は魔力量に依存する。
ドラゴンのステータスがあれば、あるいは暴食によって一時的に魔力を増やせるなら。
しかし、いまはそのどちらもない。
『そんな玩具は必要ないぞ?』
マスグレイブの嘲笑が聞こえてくる。
「なんだと」
『貴様が喰らう側であるのなら、粗雑な魔道具など必要ないと言っている』
「だが」
『心に、本能に問うてみろ』
俺の、心に?
考えている間にも侵食が進んでいる。指先まですでに黒ずんでおり、残されたのは首くらいか。
ドラゴンの言うことを聞いていいのか?
こいつは俺に攻撃してきたし、いままでも陰に潜んでいた。何か目的があったはずだ。
リスクが大きすぎる。
しかし、躊躇う余地はない。
もし魔道具なしにダアトを呼び出せるのだとしたら、俺が持っている力は一つだけだ。
「アビリティ――絆喰らい」
己とは違う鼓動が、身体の中を巡る。
何かが俺に応えようとしている。
次元召喚に似た感覚だ。身体中の魔力が指先に集まっている。それでも腕輪と違って大きく吸われているというわけではない。ただ、呼び出すために穴を開ける最低限の力が必要なんだ。
いまなら、わかる。
「――
腕を伸ばした先に、巨大な魔法陣が形成される。
そして魔法陣を砕くように空間が割かれ、その奥から白い竜が顔を覗かせた。
『命に従い、ダアトここに馳せ参じた。
主殿よ、何を壊したい?』
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