第373話 一変

「な、なんで」


 いつからいた。いや、いつの間にいた。

 倒した記憶は……ない。

 だからといって、近くにいた記憶もない。

 最後に見たのはいつだったか…………いつだ!?


「てきしゅう!」


 エルフが叫ぶと同時に、矢がマスグレイブに向けて放たれた。

 いや、そこにはオウカもいる。


「邪視開眼!」


 オウカが咄嗟に発動したのがそれだった。

 二尾になり、身体には目に見えて魔力が現れる。

 もちろんそれは魔力でできた矢から身を守るためだ。

 マスグレイブは跳んで避けて、目標を外れた矢はそのままオウカに向かうも魔力の衣に飲み込まれる。


「最大警戒! 大精霊様をまもって!」


 ツインテエルフの怒号が響き、十数人いるであろうエルフが一斉に動き出す。

 その大精霊は俺にひっついたままだ。


「んー逢引きの最中に邪魔ばかりはいるですー」

「こんなの逢引きって言わねえよ!

 オウカ!」


 俺は自分に張り付いてるクィを咄嗟に抱きかかえて走り出した。オウカに声を掛けたのはついてこいという意味で。


「ま、待て!」

「待たれよ」

「待てるか!」


 エルフと見た目影オウカのマスグレイブが追いかけてくるのを無視して一目散に駆ける。


 どうしてこうなった。


「ツムギ様、早くその子捨ててください!」

「いや、こいつ腕にひっついて離れない!」


 俺の横に並んだオウカが焦った様子でそう告げるが、クィは楽しそうに俺の腕でぷらんぷらんしている。走っているから思い切り腕を振っているが離れない。完全に楽しんでやがる。


「ていうか、なんでオウカからマスグレイブが飛び出すんだ!」

「ごめんなさい! ツムギ様の記憶を取り戻す時に協力してたんです!」


 まじか。となると、王城で争った後あたりか。あ、マスグレイブを最後に見たのもそこだ。


「その後ずっと潜んでたわけか」

「すっかり忘れてました」


 あれだけの戦いをしていたんだから仕方ないと言えばそうか。

 オウカを責めても仕方ない。


「おいクィ、あいつらどうにできないのか」


 俺は腕にくっついてる大精霊に問いかける。

 矢も飛んできているしそろそろ捕まりかねん。この状況を打開するには精霊の力を借りるしかない。


「んー王子様がそういうなら」


 クィが前方に向けて手を伸ばす。


霊の聖域アーカディア


 目の前の景色が一瞬歪んだかと思えば、全身になにか粘膜っぽいものがまとわりついたような感覚に襲われた。


「おわ」

「ひゃ」


 足元が一瞬だけ浮いて体勢を崩す。

 咄嗟に身体を丸めて地面を転がった。

 そして仰向けになる形で停止する。


「あ?」


 先程まで夜だった森が一変し、白っぽい明るい景色が目に映った。

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