第247話 杖

 インギーが目を見開いて答えた。

 しかし当主の反応は、


「はあ」


 大きな溜息だった。


「それだけか?」

「ふが? いえ、だから、国王は愛妻家としても有名です。これは現国王失脚のきっかけにも」

「この――どグズが!」


 当主が叫んだ。予想外の反応だったのか、インギーは目を丸くして固まっていた。


「貴様の情報はたかが知れているし、それを世間に広めようものなら反逆罪。レルネー家の終わりだ」

「だ、だから彼女を我がものとし、そこから新たな勢力を」

「作れるか? 才も能もない貴様に」


 当主の言葉にインギーが固まる。


「貴様の首にはいくつ刻まれている?」


 それがこの世界での評価方法であり、現実だった。

 インギーの首には『2』の数字が刻まれている。


「貴様が自身の力でどうにかしようというなら、私も何も言わなかった。

 しかしやってきたことは幼稚。しかも創始者の手を借りた? 親に泣きつくことと何も変わらない。

 無力を理解せず、立場を弁えず。

 これ以上はレルネー家の恥となろう。終わりだ」


 当主が自分の首元に手を当てる。


「絆の盟約は別たれた」

「父上……っ!」


 それがインギーに対する決断なのだろう。


「フェリシア」

「……はい」


 呼ばれたフェリシアが奥から歩いてくる。

 その手には、ネメア家が使っていたものと似たような杖が布に包まれて握られていた。


「ぶごっ、まさか!? 父上考え直してください!

 我はまだできる! 必ず結果をお見せします!」

「不要だ」


 杖がレイミアへと渡される。


「フェリシア、最後の一つだ。切れ」


 それは、インギーに残った最後のキズナリストを指してのことだった。

 残されたのはフェリシアのものだ。


「私は……」

「貴様の主人は愚かだった。それを正せなかった己を恥よ」


 当主に言われて、フェリシアはそれ以上言葉を発しなかった。

 静かに首に手を添えて、キズナリストを解除したのであった。


「旦那様、申し訳、ございません」

「……よい、もう」


 それで諦めがついたのか、インギーの首が垂れた。


「では始めます。

 ツムギくんは知らないかもしれないので言っておくが、本来この魔法は手を出してはいけない領域だ。大抵はアビリティとして存在する魔法。高度かつ危険だから、レルネー家では天級魔法に組み込まれている」


 レイミアが杖を構えてインギーに向ける。

 やはりあの杖には天級魔法を発動するためのものが仕込まれているのか。

 アビリティではなくスキルの類い。しかしながら高度かつ強力なために秘匿にしている技術なのだろう。あの杖があればだれでも使えるようになっていて、それでこれまで引き継いできたって感じか。

 インギーはこれから起こることを理解してなのか、意識を集中させるかのように鼻息を荒くしている。


 杖の先が黒く光り、インギーの額へと細い線を作った。


「精神魔法――2680ヒドラエ

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