第233話 奴隷魔法

「ど、どうして!?」

「ぶっぶぶ! 恥じらう姫が逃げ回るのでな、この女を利用させてもらった!」


 その光景にマティヴァさんの声が震えていた。

 インギーは彼女の姿に満足そうな表情を浮かべながら、シーファさんを蹴り飛ばす。

 飛ばされた当人は自分が悪いことでもしたかのように、インギーの方を向いて頭を下げた。


 なんだあれは。まるで奴隷……そういうことか。


「シーファやめて! どうしてあなたがそんなこと」

「ぶふー! こいつはもう我の奴隷だ。貴族に逆らい嘘をつき、マティヴァを隠そうとした罰だ」

「で、でも、奴隷魔法は奴隷商人じゃないと……それに、キズナリストだって」


 本来奴隷魔法は奴隷商人しか扱えない。そして奴隷になったもののキズナリストは消え、奴隷の模様に変化する。


「ぶぅ! わからぬか?

 何事にも例外は存在する。

 奴隷魔法を作ったのは我がレルネー家!

 そしてこれは、新たに作られた、キズナリストの効果を受ける奴隷魔法である!」


 インギーが鼻を鳴らしながら高らかに笑い出す。

 レルネー家は奴隷魔法の開発に成功して今の地位にいる。地位を維持するには新たな成果も求められるだろう。それが新しい奴隷魔法か。まさか欠点であったキズナリストを克服するとは思っていなかった。


「そんな……シーファは何も悪いことしてないのに」

「ぶっびびび! だから言ったであろう。

 貴族に逆らった罪だ。

 そして! そこの冒険者! 貴様もだ」


 スルリと、首元に冷たい感触が伝わる。

 これは、ナイフ!?


「さようなら」


 少女の声と共に首筋のナイフが思い切り引かれた――が、その音が鈍く、何かに引っかかるような音だった。


「どういうこと……?」


 振り返ると、数歩下がった水色の髪のメイドがこちらを睨んでいる。

 俺の首元は、爪でひっかいたような感触があるものの、切れてはいない。

 お返しに風魔法を発動する。

 家の中だから火魔法とか水魔法はよくないと思っただけで、そんな思い切りスカートがめくれると思わなかったんだごめん。黒だね。


「切れなかった理由か? 自分で考えろ」


 といっても、体に魔力を纏ったお約束のやつである。

 ステータスが下がっているから、ダメージ軽減で済めばいいと思っていたが、相手が魔力を使ってこなかったおかげで助かった。

 しかしこの手が有効であると、魔法が使える人とそうでない人で大きく戦力差が生まれるのではないだろうか。ってそのためのキズナリストでした。

 きょうもぼっちっち。


「ぶぶぶぶ! それ以上動くな!」


 豚が叫ぶ。振り返ると、シーファさんの首を掴んで杖を向けていた。貴族はみんな杖を使うのだろうか。


「この女がどうなってもいいのか!」


 俺的には特に問題ない。

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