第141話 白い馬

***


「弓聖様のお連れであれば信頼して大丈夫でしょう。

 責任は守衛所が持ちます。どうぞお通り下さい」

「お、おう」


 おじさんチートのおかげで、城内へはすんなりと入ることが出来た。


「こちらへどうぞ。お部屋までご案内します」


 メイドさんに連れられて渡り廊下を歩く。

 オウカは初めての遊園地と言ったような顔で瞳を煌めかせている。

 対してシオンは緊張しているのか、歩くときに足と腕が同時に出ていた。


「しかしまあ、懐かしいな」


 歩みを進めながら、広々とした中庭を眺める。

 ここに来た当初は、この中庭で魔法の練習をしている人も多かった。

 上手に使えたやつは一人もいなかったが、いまならだいぶ強くなってるんじゃないだろうか。

 さすがに30人が同時に成長して、互いにキズナリストを結んでいるなら、俺でも敵わないかもしれない。


「お? なんだぼっち、来たことがあるのか?」

「そういえば、ツムギちゃんは王都にいた頃、いつも王城の方に帰っていったわねぇ」


 おじさんとマティヴァさんの言葉で、自分の失言に気付く。

 そういえば、誰にも勇者候補だの召喚されただの話をしていない。

 オウカにすら話す機会がなかったと思う。

 というか、勇者候補として召喚されたことを忘れていた。


 出ていった身としては、ここに来たのはまずいのでは?


「うわああああああああああああ!」


 突然、渡り廊下に男の悲鳴が響き渡った。


「な、なんですか!?」

「襲撃か!?」


 おじさんが弓を顕現させる。

 俺も無言でアイテムボックスから短剣を取り出した。


 中庭に繋がっている奥の通路から土煙が飛び出してくる。

 その中に紛れて、白いローブの男が吹っ飛んでいた。


 あの姿……魔法師団の人間か?


 続いて、土煙から現れたのは――白い馬。

 華奢な体の馬だが……よく見れば、頭の上に螺旋状の筋が入った黄金色の角が生えている。

 背中のラインをなぞる様に生えた毛はなんとも幻想的な姿へと魅せる。


 もしかしなくても異界の眼を発動。


◆ユニコーン


「あ、あれは幻獣ユニコーン!?」


 おじさんは知っていたのか、驚きの声を上げる。

 あれがユニコーンか。イメージ通りすぎてなんだかなあ。

 それはともかく、精霊と同じように名前しか出ない。そういう類の生物か?


「き、綺麗です」

「かっこいい」


 オウカとシオンの感想はなんか違う。


「ツムギちゃん、もう一人誰かいるわよ」


 マティヴァさんが俺の肩をつつく。

 彼女が指差す方向を見れば、確かにユニコーンの近くにもう一人。


 小さな身体――女の子?


「ど、どうしましたの?

 ユニちゃん、落ち着いてください。私の言うことを聞いてください」


 ユニコーンへと必死に声を掛けるが、当の馬は我を忘れたかのように走り出し、地面に倒れた男を踏み潰した。

 男が呻き声を上げる。ぎりぎり死んでないっぽい。


 そして、ユニコーンは踵を返すと、今度は女の子に向かって走り出した。


「ツムギちゃん!」

「おっといけね」


 マティヴァさんに言われて俺も動き出す。

 おじさんも弓を放ったが、ユニコーンは急停止すると前脚を上げて避けた。


「んな馬鹿な!?」


 そう言っている間にもまた走り出す。

 こんな時に馬を狙っても仕方がない。

 少女の安全確保が優先だ。


 俺は俊敏性を全力で使い、少女へと一瞬で近づくと、その身体を抱き上げて飛び上がった。

 ユニコーンの上を越えて安全な場所へと移る。


「ほいっと」

「あ……」


 着地の衝撃を減らすために膝を少し曲げると、抱き上げていた少女と顔が近づく。

 それは見知った顔だった。

 お姫様抱っこしている相手は――お姫様だった。


「ツムギ様ッ!」

「エル、王女……」

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