第326話 行き先

「なんかすごいことになってるな……」


 状況は定かではないが、生徒らしき声が明らかな殺意をもって叫ぶというのはなかなかない。

 魔族と真っ向から勝負を挑んでいるのだろうか。だとしたら危険極まりない。


 今まで遭遇してきた魔族のレベルは文字通り桁違いだ。その強さはキズナリストでステータスを底上げした勇者候補でも対抗できるか怪しい。

 本当なら数年かけてレベルを上げて、いざ魔王城へみたいなのがセオリーなのだろうが。その魔王を復活させまいとしているのだから時間的猶予はない。

 純粋なステータスでは勝ち目がいない以上、こちらが対抗できるのはパーティーでの戦闘であったり、スキルやアビリティだろう。


 そんな相手をこの世界の普通のステータスの人類が相手になるわけがないのだ。

 相手になるなら俺たちが召喚なんぞされていない。


 正門前に転がっていた冒険者を確かめると、やはり死んでいた。

 生徒の方でも何人かは死人がでているかもしれない。

 そもそも、この冒険者は誰にやられたんだ?

 傷跡は魔法攻撃のものだが、魔族だって魔法は使うし、万が一生徒がやったのであれば、敵を誤認するような魔法が働いている可能性がある。


「そういえば、結界は……ああ、俺だと抜け出せるのか」


 正門前に触れてみると、特に違和感はない。アビリティの絶魔のおかげで俺の許容しない魔法の効果は一切受け付けない。

 しかし意識を改めて再度正門に触れると――電流が指先を奔った。

 やはり結界が張られている。中に入ったものはこれで抜け出せず戦うことを強いられているのだろう。


 声のした方へ向かうか。

 しかし叫んでいるのは十中八九学院の生徒だろう。

 クラスメイトの連中は騒ぐにしても戦闘で手一杯になるはずだ。


「ヒヨリを探そう」


 何よりもヒヨリの安全を確保したい。

 となれば、クラスメイトは演説会を聞きにいったはず。少し大きな建物がその会場だ。


 と、行き先を決めた時。

 頭上に何か気配を感じて見上げる。


 人が落ちてきた。


 いや、死体だ。

 

 俺が慌てて避けると、死体が地面で低く跳ねる。


 青いパーカーの、女生徒……?

 体つきでの判断だ。

 顔は抉られたように無くなっていて、首から下だけの死体だ。


◆レイミア

 種族 :-

 ジョブ:-

 レベル:-

 HP :-

 MP :-

 攻撃力:-

 防御力:-

 敏捷性:-

 運命力:-


 聞いたことある名前だ。そうだ、元生徒会長だ。


 どこから落ちてきた?

 見渡す限りだと一番近間の校舎からか。たしかに最上階には生徒会長室があるし、あそこから投げられればこの位置まで飛んできてもおかしくはないか。


「……」


 生徒にも死人が出た。

 もう取り返しのつかない域にきている。

 二度と0には戻せないマイナスだ。


「……行くか」


 行き先を変える。

 ヒヨリのことも心配だが、他のクラスメイトと一緒にいることを願う。

 生徒会長室に行けば、元生徒会長をこんなことにした犯人がいるはず。

 確信はない。しかしほぼ間違いなく魔族だと俺の勘が囁く。


 一人でも魔族を減らす。


 俺は生徒会長室のある校舎に向かった。

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