第37話 ギルド

 飯、と言ってもギルドには食事処もあるので結局はギルドへと向かうことになった。


「無知なあんたの為に、あたしが特別講義をしてあげる」


 道中、なぜかついてきたシオンが妖狐について語りだした。


「はるか昔」

「はるかっていつだよ」

「知らないわよ! はるか昔、一人の人間の瞳が青くなったわ。

 その人は強大な力を手に入れ、あらゆる魔物を倒すことができた。 

 だけど、代償に性格がどんどん凶暴化して、人を攻撃するようにまでなってしまったの。

 だから人類は青い瞳を持つ者を邪視と呼んで排除するようになったの。

 青い瞳を手にした人たちは人数が少なかったから、集まって結託した。それが邪視教の誕生よ」

「宗教染みてるな」

「ここからが重要よ。邪視の特徴は青い瞳。人では青い瞳の人はいなかった。邪視に取りつかれた人だけが目の色が変わったの。

 だけど唯一、生まれつき瞳が青い種族がいた――それが妖狐族よ。

 一説には邪視は魔物の新たな姿で、妖狐族も亜人ではなく魔物の類だという人もいるらしいわ」

「そうだったんですね」


 感心するオウカ。一般常識は記憶に残っていたはずだが、このことは知らなかったみたいだ。


「妖狐族は強力な魔法も持っていたし、人類と仲が悪かった。人類は邪視の元凶が妖狐族にあると判断して、滅ぼすことにしたの」

「それじゃあ、妖狐族はもう残っていないのか?」

「いいえ、そもそも滅ぼしたことが事実かも怪しいわ。

 ただ妖狐族は嫌われすぎているから、人類とはあまり関わらないよう、どこかでひっそりと暮らしているかもしれないと言われてるわ」

「ほう、それじゃあ探しに行けばどこかにオウカの仲間がいるわけか」

「なかま! 私の仲間はご主人様だけですよ!」

「はいはい」

「どっちにしても、オウカちゃんの瞳が青色じゃない時点で眉唾物になったわ」


 軽くため息を吐くシオン。

 今の話が事実でないにしろ、妖狐が嫌われているのはオウカの売り方からしても事実だろう。

 それなら、妖狐に対しては何かしらあることに変わりはない。

 もう少し調べる必要があるか……。


 と、考えている間に目的の建物へと到着した。


「大きいですねえ」

「ここまで大きいのはギルドだけだな」


 オウカが首を上げる。

 そこはギルドソリー支部。南の街の冒険者が集う場所で、周辺の建物の倍の広さと三階建てのレンガ建築という豪華さである、ギルドはどれだけ金を持っているのやら。


 中に入ると、賑わいの声がどっと耳に入ってくる。

 そして、鼻孔をくすぐる匂いが充満していた。


「わぁ! すごいです! 人がいっぱいです!」

「相変わらずむさいわね……」


 オウカがぴょんぴょんと跳ねる。

 シオンは「うげえ」と嫌そうな顔をしていた。


 一階はたくさんのテーブルと椅子が置かれていて、ここが食堂となっている。

 お昼過ぎにも関わらず、もう何十人という冒険者が木杯を片手に騒いでいる。


「まずは飯……と言いたいところだが、先にオウカをギルドに登録する」

「ふぇ!? どうしてですか?」


 涎を垂らしていたオウカが顔を青くする。お腹がすいているのはよくわかった。

 三人で受付への列に並ぶ。


「奴隷には奴隷用の食堂が街にある。本来奴隷はそちらで飯を食わなければならない」

「そ、そんなぁ……」

「しかし、ギルドに加入すれば、その問題ともおさらばだ」

「オウカちゃん、ギルドの鉄則は何だと思う?」

「えーと……美味しいごはん?」


 オウカの頭の中がご飯でいっぱいなのはよくわかった。

 質問したシオンもさすがに苦笑いである。


「ギルドは実力主義なの」

「実力……?」

「そう、強ければなんでもオッケー。冒険者の強さはランクで決まるわ」

「だから、ギルドに加入さえすれば、身分なんてものは関係ないんだ」

「ということは、ギルドに加入すれば、ここでご主人様と一緒にご飯が食べられるんですね!」


 オウカのお腹がきゅるりと鳴る。限界なのはよくわかった。

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