第148話 十の竜

 王城地下。

 騎士団の下っ端がレベリングに使ってるとされる場所。

 そこへ部屋にいた4人でやってきた。


 団長が扉を開き、みんなで中へと入る。


「これは……」

「ツムギ殿、改めて問いたい。

 ――ここで何があった?」


 そこにあったのは――爪痕。

 壁に刻まれた巨大な引っかき傷は、大きなモンスターがやったとしか思えないものだ。


「……ドラゴン」

「まさか」


 驚きの声をあげる団長。


「ドラゴンに出会したというのか。

 それで生き残ったと」

「……記憶にあるのは、ドラゴンが大きなゴブリンを食べたことくらいです。

 そのあとは、意識を失ったのか記憶がありません」


 頭の中であの光景を思い返す。

 ゴブリンに蹂躙され、意識が朦朧とするなかでドラゴンが現れた。

 その後のことは、記憶にぽっかりと穴が空いたように抜けている。


「そんな中でよく生き延びられた。まさに奇跡といえよう」


 団長が俺の肩を掴む。


「ツムギ殿は勇者候補でもある故、きっと選ばれた存在に違いない

 これから訓練に励み、魔王復活阻止のため共に頑張ろう」

「は、はあ」


 もし本当に選ばれた存在だというなら、どうしてキズナリストでステータスが下がるというのか。


***


 クラスメイトが集まっているという中庭へ向かう途中、団長がドラゴンについて詳しく教えてくれた。


「かつて神はこの世界に一つの塔を築き上げた。

 そこから生まれたのは十の竜であり、竜たちは大地、海、空を作り上げ、神はそこに人類を誕生させた。

 そして、竜はいまもなお生き続け、世界のどこかに潜んでいる、というのが昔話として残されていますな」


 それが西にある塔らしい。

 最初のダンジョンと言われており、いまもなお壊せず残っているとか。

 王都からも、高台にいけばはっきりと見えるらしい。相当高くてデカいってことだよな……。


「まあ、あくまで昔話。大地がなければ塔も建てられぬ。

 比喩的表現なだけですが、それでも、それだけの力が竜にはあるということ」


 だからこそ、そんなドラゴンを目撃して生きている俺は奇跡だと言うのだろう。


「どうして紡車くんは何もされなかったのでしょう」


 光本が当然の質問を投げかける。


「我輩自身は奇跡だと思っているが……他の可能性を上げていくなら、人を食べない竜だった。ゴブリンを食べて満腹になった、とかですな」

「紡車くんは実際に遭遇して、どう感じたんだ?」

「――食べる価値もない」


 しん、と周りの空気が黙り込む。


「……そんな目で見られた気がしただけだ」

「そ、そうか……」

「逆に、なんでモンスターが襲ってこなかったのか不思議なくらいだけど」

「我輩たちが入ったときも、モンスターたちは見かけませんでしたな。

 ドラゴンが出てきたために、他のモンスターも逃げてしまわれたのやも」


 それは俺も考えたことだ。

 どっちにしたって、あの地下での経験は最悪としか言いようがない。


「さて、着きましたぞ」


 渡り廊下を歩いていると、中庭から声が聞こえた。

 クラスメイト達が手から炎やら水やらを発射させている。


「今日は魔法の訓練でしたな」

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