第75話 アドバイス
「え、なになにツムギ禿げたの? 禿げたのー? どこよみせてみー?」
シオンが「ぷぷぷ」と嘲笑を漏らしながら、テーブルに身を乗りだして俺の髪をわしゃわしゃといじりだす。
俺はその腕を掴んでテーブルの上に戻した。
「いや、残念だが俺じゃない」
俺の視線はクエストボードの方へ。それに追従したシオンは、
「……詳しく」
真顔に戻った。
「昨日クエストから帰ってきて、部屋で外套を脱いだ時に気づいたんだ。クエスト中は雨が続いて外套を脱がなかったから」
「見間違いじゃないの?」
「だといいんだけどな。さらに言えば、今朝起きたら、ベッドの上に結構な量の髪の毛が落ちていた。まあオウカがすぐ片付けちゃったけど」
「脱毛……普通に考えればストレスによるものよね、それ」
「やっぱそうなるよなあ」
思わず大きなため息を漏らしてしまう。
「ツムギはクエストばっかやってるから」
「そりゃ冒険者だからな」
「そうじゃなくて、もっとちゃんと休暇を取りなさいって話よ」
「ああ……」
目から鱗が落ちた。
確かに、この街でクエストを受けるようになってからまともに休んだ記憶がない。
元の世界なら年中無休の労働だ。死ぬ。
クエストをしてお金を稼ぐのが基本的な生活だと思っていたために休むという発想を見失っていた。
俺の過剰な活動にオウカを巻き込んでいたんだ。
「休暇か……」
「奴隷にだって休みは必要よ? 規約読まなかったの?」
「途中まで読んだ記憶はあるんだけど……」
元の世界でも、説明書を最後まで読むようなことはしない人間でございました。
シオンに大きなため息をつかれる。
「早めにオウカちゃんに丸一日休みを与えることね。オウカちゃんだとなさそうだけど、最悪訴えられたら勝てないわよ」
「そう、だな……」
訴えるなんて恐ろしい言葉がでてきたが、この世界の奴隷は資産としてある程度の人権と地位が確保されている。物語でよく見る人権のない何やってもオッケーな相手じゃないのだ。弁えないと自分が罪を犯して奴隷落ちするなんてことにもなりかねない。
「アドバイスありがとな、シオン」
「別に? あんたが相談できる相手がいないことくらい知ってるわよ」
「そうだな、そんなシオン様のお飲み物は俺が払わせていただこう」
「あら、気が利くじゃない」
テーブルの請求書を握る。
俺の相談を真面目に聞いて答えてくれたのだ。これくらいは当たり前だ。
「あ、シオンお姉様お久しぶりです」
「久しぶりねオウカちゃん」
そこへ、オウカがクエストの紙を手に戻ってきた。
シオンは慈愛に満ちた眼差しを向けていた。
オウカは特に気づいた様子もなく、俺にクエストの紙を向ける。
「ツムギ様、頑張っていい感じの見つけてきましたよ」
「オウカ、もう頑張らなくてもいいんだぞ?」
「あれ!? さっきと言ってることが違いますよ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます