第76話 高ステータス

  クエストは明日からのものだったので、今日は何もせずに宿屋へと戻ってきた。

 シオンにあんなことを言われた後で別のクエストをやる気にもならない。


 俺がお風呂を頂いてる間に、オウカが部屋の掃除などをしてくれる。最初の頃は分担してやっていたのだが、いつの間にかオウカがすべてやるようになった。

 やはり、仕事をさせすぎたのだろうか。毎日毎日ぼっちかましてる俺の隣にいるだけでもストレスなのかもしれない。


「なあオウカ」

「はい、なんでしょう」


 部屋に戻ってくるやいなや、オウカに声をかける。

 ストレスを感じてるなら、はっきりと伝えてほしい。改善の余地があるなら直していきたい。そのためには、オウカと語り合う必要がある。

 元の世界には裸の付き合いという手段で心を通わす文化があるのだ。


「久々に一緒に入るのなんてどうだ?

 前みたいに頭洗うぞ?」


 オウカを購入したばかりの時は結構な頻度で一緒に湯浴みをしていた。最近は部屋の掃除をするからと別々になってしまっていたが。


 しかし、オウカの反応は、


「い、いえ、申し訳ありませんが、今日はひとりで入りたい気分なんです」


 顔が少し引き攣っていた。

 思春期になりたての少女を見ているような気分になった。

 これが一緒に下着の洗濯を拒まれた父親の気持ちだろうか。年齢的には妹が甘えてこなくなった兄だろうか。


 どちらにしても、過去ドラゴンに遭遇した時以上に、心に大きな穴が空いた気がした。


「そ、それではお風呂頂きますね」


 オウカが慌てた様子で部屋から出ていく。その時もひらりひらりと桃色の髪が数本落ちた。



***



 オウカの入浴中、アイテムボックスを整理し、武器を手入れし。

 それでも落ち着ける様子ではなく、気を紛らわせるかのように自分のステータスを開いた。


◆ツムギ ♂

 種族 :人間

 ジョブ:魔法師

 レベル:56

 HP :103110/103110

 MP :103440/103440

 攻撃力:205770

 防御力:167355

 敏捷性:31340

 運命力:56


 アビリティ:異言語力・異界の眼・絆喰らい・竜刻世界・碧鏡の我・虚無界

 スキル:上級火魔法・上級水魔法・上級風魔法・上級土魔法・擬人化・火炎弾・竜威・竜息吹・幻視・逆鱗撃


 ‐:エレミア・ジェバイド・ドラゴン


「また上がっている……」


 異常なまでの高ステータス。普通の人間ならありえない領域になっている。

 キズナリストなしなら数百、キズナリストを数多く結んでいても数万が人類のステータスだ。

 それを圧倒的に凌駕するこれは、恐らく下に表示されたドラゴンのステータスである。

 しかも、そこにはキズナリストという文字がない不明のリストだ。


 以前俺は、アビリティ「絆喰らい」によってドラゴンを喰らった。

 それから現在のステータスになっていることを踏まえると、このアビリティは喰らった相手のステータスを吸収するものなのだろう。

 でないと、俺のレベルが上がっていないのにステータスが変動していることに理由がつかない。


 今までは、キズナリストを結べばステータスが下がっていた。それが絆喰らいの能力だと思っていたし、地下でこの能力を使った時も何も無かった。


 他にも条件があると考えるべきだろう。そうなると検証が難しい。

 ドラゴンほどの敵と対立する機会なんてほとんどないもんな。


 結局、分からずじまいである。

 どこかでじっくり試す機会が欲しいものだ。


 ……ところで、オウカがお風呂に行ってから随分と経った。いつもはこんなに遅くない。

 何か、あったのかもしれない。

 髪とかに。

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