第159話 青色のパーカー

 Cクラスの女子生徒が全員ゲートへと走っていく。


「ちょ、レディー諸君!?」


 ウェイが振り返り手を伸ばすが、その姿を見る者は一人もおらず。

 いや、三人ほどいるにはいるのだが。


「ツムギ……」

「ツムギ様」


 うん。わかってるよ。

 俺もドン引きしてる。

 ウェイの姿もひどいものだが、それよりも、アリヨクを捉えて握り締めてしまったらしい俺の霊獣。

 やりすぎとかそういうレベルじゃない。


「き、貴様ぁ!」


 ウェイが怒りの矛先を俺に向けたところで、


「うぶっ!?」


 その口が伸びてきた白い腕に押えられた。

 腕の指先は真っ赤に染まっており、よりグロテスクな見た目になっている。

 ウェイの身体が持ち上げられ、空間へと


「ツムギ様ダメです!」

「あ! ストップ! 待って!」


 オウカの声で慌てて白い腕を止めに入る。

 ウェイが別空間に入るすんでのところで、その動きが止まる。


「はゃ……ひぇ」


 ウェイが悲鳴なのか呼吸なのか分からない声を上げた。

 狭間――向こう側から、瞳がひとつ。

 血走った獣の眼がウェイを睨みつけていた。

 またも、白い腕の奇妙な声が漏れ聞こえる。


 ステータスは――見えない。

 次元の違う場所だと読み取れないのか。

 

「悪いが、その男は食べないでくれ」


 お願いすると、ゆっくりと手が広げられ、ウェイが地面へと落下する。

 腕は穴の中へと戻ると、割れた空間が修復され赤い魔法陣は消えた。


「あうぇ!? き、ぎざま゛! ぎさまああああ゛゛!」


 ウェイがケツから落ちるや否や俺を睨みつける。

 状況の危険さとかよりも矜持を優先するのだろうか。

 それを否定するつもりがないが、阿呆としか言いようがない。


「Gがぁ゛! 調子にぉるな゛よ゛おおおお!」


 俺に向けて腕を伸ばす。

 その手の平から巨大な炎が獅子の形を成して襲い掛かってくる。


「どんだけ拘るんだ」


 俺も手を伸ばして水魔法を――


 と、全身で強烈な殺気を感じ取った。

 これは、ウェイのもではない。

 何か来る!?


『非常に興味深い光景だが、そこまでにしてもらおう』


 突如として、目の前に渦潮が現れた。その渦潮に突っ込んだ炎の獅子は一瞬にして蒸気へと変わる。

 そして、渦潮が弾けると、その中から女生徒が現れた。


「諸君が何をしていたのか問おう」


 冷たさを帯びた、女性の低い声。

 花紺青の瞳と髪。肩に流した三つ編みを撫でながら、その女は俺の方へと近づいてくる。

 制服は――青色のパーカー。


「Bクラスの……誰?」


 シオンが訝しげな声を上げる。

 Bクラス……つまり魔法師のクラスは青色か。


「そうか、いまは姫君が挨拶をするから、私のことを知られる機会は試験の時だけか」


 俺の前に女が立つ。

 視線が同じ位置。モデル体型というべきか。俺と同じくらい身長あるな。


「私は、学院生徒会長。

 そして、三大魔法師レルネー家の次期当主。

 レイミア・レルネーだ」


 死んだような目が、俺を見た。

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