第158話 白い腕

「ふっ、Gクラスはこれくらい躾けないとな」


 ウェイの言葉に――


「ちょっとあんた! 殺しはなしって言ったじゃない!」


 シオンが叫ぶ。

 それを聞いた他の女子が、


「ちょっと、まずくない?」

「死んじゃった……?」

「さすがにやりすぎだよ、ね?」


 ざわざわと不安の声を上げ始めた。

 それを聞いたのか、ウェイが


「じ、事故だ! あいつが弱すぎるのが悪いんだ!」


 狼狽えた声でなんとも醜い言い訳を放つ。


「首が痛い」


 身体を起こして首を左右に曲げてみる。

 とりあえず骨は大丈夫みたいだ。これもステータスのおかげか。


「な、なんで生きてるんだよぉ!」


 ウェイが驚いた顔で叫んでいた。

 さっきから言っていることがめちゃくちゃだぞ。


「俺を殺そうとしたんだ――死ぬ覚悟はあるってことでいいよな?」


 殺す気はまったくない。

 少しだけ脅しのつもりで問いかけると、ウェイは口をわなわなと震わして、


「アリヨクうううう!」


 呼応して黄金の獅子が吠える。

 俺はすかさず土魔法を発動して地面を隆起させた。

 アリヨクの足元が揺らぐ。

 続いて水魔法で水球を放つ――が、アリヨクの身体をすり抜けた。


 魔法が直接的に効かないのか。


 アリヨクが飛び上がり俺に照準を合わせてくる。

 俺はアイテムボックスからナイフを取り出して振るった。

 が、目の前に現れたアリヨクの身体をすり抜ける。


 物理もダメか!


 アリヨクに腕を掴まれ。

 しかし、その身体が傾く。

 土魔法を発動させ地面に穴を開けたのだ。アリヨクの脚がそこにうまくはまった。


 アリヨクの手が離れたので、俺はすぐさま後ろへと後退する。


「どうだ、自分の攻撃が効かないのは!」


 獅子の攻めをなんとか避ける中、ウェイが誇らしげに語る。


「アストロコードを発動させた霊獣は、この世界とは別の領域に存在を置いている。

 貴様の魔法も、攻撃も一切効きはしない!

 霊獣を倒せるのは霊獣だけさ!」


 ――なるほど。


「貴様には絶対に倒せない!」

「そうだな――俺自身は、な」


 アリヨクの攻撃を避けると同時に地を蹴り空中へと高く飛ぶ。

 身体を翻しウェイの方を向いて右腕を掲げた。


「なっ!? 貴様、その腕輪!?」

「悪いな、霊獣の相手は霊獣がさせてもらう!」


 全身の力が抜き取られるような感覚が奔る。

 腕輪に魔力が吸収されていくのが伝わる。

 すごい量だ。普通のステータスなら使えなかったかもしれない。


「我が魔力を以て次元の狭間より顕現せよ」


 腕輪が赤く光る。

 眼前に赤い魔法陣が現れ、空間が砕けた。


 次元を突き破り現れたのは――白い腕。

 爬虫類のような細長い腕が伸びていき、アリヨクを掴んだ。

 アリヨクが身動き一つとれず、破られた空間に連れ込まれる。


 俺は着地すると、魔法陣が現れた場所を見上げた。


 聞こえてきたのは、低い悲鳴。

 そして、ウッドブロックを高速で叩いたかのような異音。

 白い腕の声なのか?


 アリヨクの悲鳴が次第に大きくなり――弾けた。

 穴から赤い血が降り注ぐ。


 同時に、場内が生徒の悲鳴で埋め尽くされた。

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