第2話 キズナリスト
「それでは、ここは僕たちのいた世界とは違う場所ってことでしょうね……」
光本は冷静に状況を分析している。他のクラスメイトは「なんだよそれ……」「もう帰りたい」とすでに顔を暗くしているというのに。
「勇者、というのですから、僕たちに何かをさせようというわけですね」
「ご理解が早くて助かります。私たちがお願いしたいのは魔王の復活阻止です」
魔王、なんてゲームでしか聞かないような言葉がでてきた。RPGみたいな世界なのだろうか。
召喚なんてものがあるくらいだから魔法とかもありそうだ。
「勇者の皆様は、召喚される前に神の御言葉を授かったと思われます」
「確かに、神と名乗る声が聞こえました」
「この世界を守ってくださっている神はミトラス様です」
王女様が手元の何かを掲げる。金貨だった。女性らしき人物の顔が彫られている。
彫られているのがミトラス様です、ってことだろう。
「ミトラス様は盟友の神です。そのため、我々は人との繋がりを最も大切にしております」
王女様が己の長い髪を束ねて持ち上げる。美しいラインのうなじ……ではないところにクラスメイトの視線が集中した。
「この世界の人間には首元に数字が刻まれております」
彼女の首元には赤く『03』と刻まれていた。
いや正確には数字ではないのだが、直感でそれがこの世界の数字だとわかった。
「皆様の首元にも、似た模様があると思います」
言われて、クラスメイトが騒めく。
近くにいた髪の短い奴を見ると、首元に『00』と数字が刻まれていた。
「な、なんだこれ!?」
「いつの間に……」
「やだ気持ち悪い!」
自分の身体に見知らぬ模様が刻まれていたことに、各々が慌てふためいている。
俺はというと、首を見てくれる人は周りにいなかったので、慌てようにも自分のものが確認できない。あるんだろうけど。
「エル王女、これは……」
「盟友の神ミトラスは他者との繋がりを視覚化した、と伝えられています」
「これを、どうすれば」
「勇者様方にはこれから戦ってもらわねばなりません。魔王が生み出したとされる魔物や魔族は凶悪です。そこに魔王が復活してしまえば、我々人類は滅ぶしかないのです。我々に残されている手段は、この神の贈り物によって強大な力を身に着けて立ち向かうことだけなのです」
テンプレだ。よくある空想物語だ。人類と魔族が戦争していて、それを召喚した勇者に救ってもらおうって話なのだ。
頭ではわかっちゃいるけど、当事者になると実感がわかない。
ともかく、人類が魔族に対抗する手段は、首元に刻まれたこの数字を増やすことなのだろう。
「首元に刻まれた数字は他者との契約によって増えます。それは己の力となり、相手の力ともなります」
「相互作用……というやつですか」
「ええ、我々はこの力を『キズナリスト』と呼んでいます」
絆、リスト。
光本が王女様と話を続けてくれたおかげで、クラスメイトたちはいくらか落ち着きを取り戻していた。
そして、『キズナリスト』と聞いて、何人かが納得いったような表情を見せた。
俺にも理解できる。
勇者、魔王、召喚、異世界、神
これだけゲームのような要素が揃った世界だ。あってもなくても不思議ではない要素だ。それを神が用意したというだけだ。
キズナリスト。
それは即ち、ゲームによくある――フレンド機能ってやつだ。
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