第143話 な゛

「それではお部屋まで行きましょうか」


 エルが立ち上がってユニコーンの前まで行くと、腕輪を近づける。

すると、ユニコーンの足元に魔法陣が浮かび上がり、そこへ沈んでいくような形でユニコーンは消えた。

 キズナ召喚とはまた違った感じなんだな。


「ご案内します」


こちらを向いたエルがにっこりと微笑んだ。


***


「そういやさ」


 城内を全員で歩いてる途中、おじさんが疑問を口にした。


「ぼっちと姫様はやけに親しげだが、やっぱ知り合いなのか?」


 おっと、忘れられた話を掘り返すなよ。


「そうですね……」


 エルは少し間を開けてから。

 俺の方に寄ると、腕を抱きついた。


「実は、私の想い人です」

「な゛」


 少女らしからぬ声を上げたのはオウカだった。


「ふふ、冗談です。少し前にお知り合いになりました」


 勇者召喚については言わないのか……。

 隠してくれたのか、もしくは隠したいのか。


 エルは俺の腕から離れると、今度はオウカの前に立った。


「こちらのお嬢様はツムギ様の?」

「……奴隷だが」

「もっとよくお顔を見せて」


 反射的に赤い頭巾を深く被ったオウカ。

 しかし、エルはオウカの手を握って、頭巾と一緒に下ろす。


 肩まで伸びた黒い髪に黒い瞳の少女。

 その頭に――獣の耳はない。

 後ろに尾っぽだってない。

 どこから見ても人の子である。


「まぁ可愛らしい子ですね。お名前は?」

「オウカ、です」


 エルは子供を愛でるようにオウカの頭を優しくなでる。対してオウカは珍しく子供らしい嫌がるような表情だけ浮かべていた。


「オウカ様はツムギ様のぉ?」

「いやらしい意味合いを含めて問うてると思うが、性奴隷じゃねえよ」

「ツムギ様もやはり男の方。もちろんそういった趣がある分には構いませんが、幼い少女というのは如何なものかと」

「俺の話聞いて?」

「冗談ですよ」


 くすくすと笑みを零すエルは、どこか楽しそうで。

 しかしながら、なにか無理しているようにも感じた。


***


 客人用の一室で紅茶が差し出される。


「それで、本日はソリーでのご報告と伺いましたが」

「俺とぼっちとマティヴァから報告させてもらいたい。

 特に、姫様には重要なことだと思うぜ?」


 やはり、エルが魔族は存在すると言っているのはみんなに知られているらしい。


「ソリーに魔族が現れた」

「……そうですか」


 おじさんが真面目なトーンで言うも、エルの反応は芳しくない。


「驚かねえのか?」

「魔族は実在することは分かっています。なら、人のいる場所を襲いに来ても不思議ではないでしょう。

 ですが、ソリーは精霊に守られていたはず。どうして魔族が現れるのですか?」

「ちょうど祠が壊されてな……それも魔族と共謀した邪視のせいだったみたいだ」

「そうでしたか……詳しい内容はおじ様たちを集めてからですわね」


 エルが紅茶を一口飲んでから立ち上がる。


「申し訳ございませんが、私もこれから用事がありますので、まずは規定通り報告書にまとめてください」

「それはわかっちゃいるが……ちなみに用事ってのは?」

「もちろん」


 エルが俺の方を見る。


「私も学院に行くのですよ」

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