第206話 公開子作り
オウカからは微かに息が聞こえる。
大丈夫だ死んだわけじゃない。邪視の力を使いすぎて気を失っただけだ。
「ん、まあ、邪魔」
肩を掴まれたと思った時、既に俺は放り投げられていた。
「がっ!?」
おじさんの作った壁にぶつかって地面に落ちる。
「ベリル、てめぇ」
「ん、まあ、いい女は生き残る。
なら、褒美 、やらんと」
ゴツン、と鈍い音は別の方から聞こえた。
「かー! このクソ人類が、大人しく寝てろよ!」
「くっ……」
ライムサイザーが再び生徒会長の頭を踏みつけていた。
「兄貴、あれだけ戦ったあとなのに元気っすねえ」
「ん、まあ、屈服させた女の蜜ほど、甘いものはない」
「さいですか」
ベリルがオウカのパーカーを引き裂いた。
白い肌と下着が露わになる。
同時にライムサイザーが両腕を大きく広げた。
「さて人類諸君!
ドラゴンの兄貴が見事妖狐族を倒し、公開子作りの時間がやってまいりました!
ドラゴンは生存本能が強いゆえにこうしてあちこちでハッスルする訳ですが、まあ大抵相手が引き裂けるからねえ」
ニタリと、ライムサイザーの口角が釣り上がる。
ベリルが四つん這いになると、背中から赤い翼が生えてきた。
そして肉体と鱗が次第に大きくなり――
『ん、まあ、壊れたらそれまで』
巨大な赤竜が現れた。
あれが、ベリルの本来の姿……。
「いやああああああああ」
誰かが悲鳴をあげた。
今まで見てきた光景と、竜の姿のベリルを見て状況の深刻さに気付いたのか。
次々と生徒達は騒ぎ出し入り口へと駆け寄る。
「無駄無駄ぁ! 扉についたスライムは、俺様をどうにかしないと消えないぜえ?」
魔族の笑い声と、人類の叫び声が会場を覆う。
その間にもベリルの顔がオウカに近づいていく。
――俺は。
俺には、守りたいものを守る力はない。
ただ、喰らうだけの魔法しかない。
それでも。
そうだとしても、俺はオウカを助けたい。
「……くふ」
いいだろう。
心を殺す。
感情は必要ない。本能がすべて。
俺はどうしたい。
俺のアビリティは――喰らいたいのだ。
すべてを。目の前の餌を。世界を。
「はは……ははは!」
想いは捨てる。
これはオウカを守るためではない。
俺が――喰らいたいから。
「アビリティ――」
右腕を掲げる。
爪先から肘までが黒く染まった。
「絆喰らい‐
腕の先から影が飛び出し、弓聖の作った壁をぶち壊していく。
ガラスの割れたような音とともに、生徒達の視線がこちらへ向いた。
「な、なんだ!?
てめぇ、何してる!」
ライムサイザーの声を無視して影は駆ける。
全員、俺によこせ。
影が次々と生徒達の身体を通り抜けていく。
颯爽とかける獣のように、生徒達、そして、弓聖やカイロス、生徒会長たちも。
そして、俺の腕へと戻ってきた。
彼らの首には0の数字が刻まれる。
そして俺の腕にも数字が刻まれた。
首にあるキズナリストと同じタイプの模様だ。
現れたのは――480。
竜を屠るには十分だ。
「お前たちの絆、すべて喰らわせてもらった」
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