第334話 一人目

 虚飾ヘレルの特性については把握しているつもりだ。

 初めて絆喰らいでエレミアを喰らった時、エレミアは一度その場から消失した。

 あの状況とアンセロの動揺から推測できることは、召喚魔法が絆喰らいによって上書きされたことだ。それによって召喚魔法が消失し、エレミアが召喚前の場所に戻された。


「絆喰らいで喰った相手は本来あるべき場所に戻る。

 ならばセロピギーになった魂も、元の世界に戻るのが通りじゃないか?」


 自身のステータスを開く。

 絆喰らいのリストにセロピギーの名はなかった。

 元々作られた魔物だ。魂が元の世界に戻ったことで完全に消失したとみていいだろう。


「さあこれで殺さずに済むが、また召喚するか?」

「いえ、同じことを繰り返すのは愚策ですので」


 アンセロの横で空間が歪み、そこに腕を伸ばす。

 アイテムボックスか。魔族が所持しているとは思わなかった。


「今度は、こちらをお見せしましょう」


 アイテムボックスから地面に何かが投げつけられる。


「箱……?」


 中身の見える四角形の透明な箱がいくつか。

 その中に収められているのは――人の脳と心臓だ。

 心臓から伸びた大静脈と大動脈がそのまま脳に直接つながっている。


「素晴らしいでしょう? 人は無駄に大きいので運びやすいようにしたんですよ!

 これらすべて実験で精神を抜き取った冒険者の残りカスなんですけどね」

「……なるほど、言葉巧みに魔法陣へ人間を誘い込めないときのための、生贄の代替ってわけか」

「この前は邪魔されましたからねえ。

 今回はちゃんと召喚させてもらいましょう」


 アンセロが手元のペンデュラムを揺らすと、奴の下に巨大な魔法陣が生まれる。

 レイミアの屋敷で見たものと同じだ。


「出でよ――」


 投げられた赤い宝石――竜の心臓ドラゴン・ハート

 魔法陣が輝きだし箱の中の心臓が破裂する。


「クラン・ディアマンテ・ドラゴン!!」


 光が形を成し――


「させるわけないだろ?

 絆喰らい!!!」

「あぁ!?」


 影が肥大化し光を飲み込む。

  

「召喚魔法のエネルギーをすべて喰らった。

 これで今の魔法は無効だ」

「なんとなんとどうしてそんなひどいことを!!

 これから面白くなるというのに!」

「俺はお前と違って面白いからって待たないからな」


 絆喰らいが口を開く。

 白い牙のスキマから光が生まれる。


「それにお前、言っただろ?

 繰り返すのは愚策だと」

「それがどうしました!」

「お前は記憶にないだろうが、この展開はすでにやっているんだ」


 ドラゴンの召喚、洗脳。

 そんな絶望は随分前に体験した。


「そしてそれはお前の死につながる」


 召喚魔法のエネルギーをすべて変換。


「放て」


 絆喰らいから光線が放たれた。


「馬鹿なッ―――――」


 アンセロの身体が一瞬で飲み込まれ――消失した。


「まず、一人目」

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